祖父母との初めての晩酌
今年の冬、僕は成人式を迎える。4月生まれなので、周囲の友人よりは早く成人しており、改めて成人した事実を確認するような感覚だ。
今日は「成人式には袴を着せたい」という母親の強い希望もあり、袴を選びにきていた。同い年の振袖を身につけ前撮りをしている女の子の隣で、袴を選び、その女の子と同じく前撮りを行った。特に成人式に対して、強いこだわりや思い入れもないので、母親の言うがままを受け入れて、事はすんなりと進んだ。
「今夜は袴を着て祖父母に顔を出しに行こう」というので、その格好のまま、祖父母の家へと向かうことになった。昨年末に、年末の挨拶に来たのが最後なので、約一年ぶりに顔を合わせることになる。
祖母は僕の顔を見るなり、第一声「あらぁ〜。立派になったこと。あんなに小さかったのにもう成人なのね。」と、むず痒くてはにかんでしまうような、けれども月並みな感想と笑顔で迎え入れてくれた。
小さい頃の話は、当時の自分が自分でないみたいで、苦手である。祖父母や両親は、共通の思い出話のようにしみじみと思い返しては、笑いの種にしているが、当人の僕はサラサラ記憶にないのである。
祖母が晩御飯を用意してくれており、机の上には豪華な料理が並んだ。
晩御飯になっても、僕の昔の話は盛り上がりを見せ、あそこではしゃいで大怪我をした、謎のダンスを踊っていた、など、今では想像もつかない恥ずかしい話が続いた。むず痒いし、覚えていないので話に入れるわけでもないが、そんな話を肴にみんなが美味しそうに酒を飲み、家族が繋がっている感覚は嫌いではなかった。
そんなとき、祖母が思い立ったように、僕を見た。
「あなた、成人したんだからお酒飲めるわよね?」
大きな声では言えないが、大学入学時から何度かお酒を飲む機会はあったので、どちらかというとの見慣れている方である。
「うん、飲めるよ」と答え、僕は初めて祖父母の家でお酒を飲むことになった。
「日本酒しかないんだけど良いかしら?」とおばあちゃんは涼しい顔で僕の前に一升瓶を置いた。
大学の友達と飲むのは、ビールやレモンサワーなど炭酸が入っていてライトに飲めるお酒が多く、日本酒は飲んだことがなかったので、
「日本酒は飲んだことないな...。」と不安げな顔で祖母の顔を見上げると、
祖母は「あら、そう。じゃあ炭酸水で割ろうかしら。」と炭酸水を持ってきた。
「え?日本酒って炭酸水で割って飲めるの?」
「ウィスキーや焼酎は炭酸水で割るじゃない。それと一緒よ。」
「それなら飲んでみたい。」
祖母はビールグラスを取り出し、そこにたっぷり氷を入れると、グラスの半分くらいまで日本酒を注いだ。そして、炭酸水をたっぷりと注ぐと、炭酸が弾ける音が心地よく踊った。
「レモンがあったらから入れてあげる」と言い、カットしたレモンを添えてくれた。
やりとりの一部始終を黙って見つめていた祖父が、準備が終わったことを確認すると、姿勢を正し、咳払いをして一言「成人おめでとう、乾杯。」と乾杯の音頭をとった。普段は無口な祖父だが、家族をまとめる姿をみていると、やっぱりおじいちゃんは家族の大黒柱なんだな、と感じる。
乾杯の合図と共に、初めて口にする日本酒を口に運んだ。レモンの爽やかな香りが、いの一番に飛び込んできた後、炭酸の爽快感が口全体を襲う。一気に飲み込むと、ふわっと甘くてスッキリとした後味が残った。
「美味しい。」
と月並みだけど、今の感情表現として一番適切だと思える感想が口をついて出ていた。
「そうでしょう?」としたり顔の祖母。
「日本酒ってもっとアルコールの原液みたいな味がするのかと思ってた。匂いきついし。」というと、
「日本酒はお米と麹と酵母だけでできてるから、米が大好きな日本人が好きな味なんだよ」と教えてくれた。
「これだったら、炭酸水で割ってないやつも飲んでみたいかも。」と言うと、
「おばあちゃんち、2,3本はいつでも置いてあるからまた飲みにおいで。」と言ってくれた。
その後も、僕の就職の話、今の政治の話、母の仕事の愚痴など、取り留めのない話をした。
「そろそろ帰ろうか」と母親が立ち上がると、祖父母は迎えてくれた時と同じ笑顔で僕らを見送ってくれた。
特になにか特別なことをしたわけでもないが、どことなく幸せな気分だった。日本酒を飲んだせいか、体も温かい気がする。
また今日みたいな日を過ごしたいな。
少しぼーっとする頭でそんなことを考えながら、母と肩を並べ、家路に着いた。
日本酒の飲み方を変えて、日本酒が飲まれるシーンを増やしたい。日本酒カクテルの素、ぽんしゅグリアです。ぜひ一度HPに遊びに来てください。 ぽんしゅグリア公式HP:ponshu-gria.com