見出し画像

ビデオデッキの夢


 今日はいつになく意識がはっきりしています。
 生きること自体が残酷だし、みんなが期待する幸せのイメージにはなれないけど、これから何十年も生きる私には、今の気持ちを絶対に忘れないでほしい。


 金曜日の夜、八十八ヶ所巡礼というバンドのライブへ行きました。
 実に7〜8年ぶりで、バンギャのやり方をほぼ忘れていました(陰キャなのでギャルらしい格好はしませんが、まあ、気持ち的な意味です)。しかもコロナ禍を挟んでいるので、モッシュだめとか、飲食どうなんやろうとか、若干戸惑いましたが、まーええじゃろ!と勢いでチケットを買いました。

 ライブに行くまでに、買い損ねていたアルバム3枚を買いました。


高校〜大学時代の一際妄想癖の激しい私


 そういや、高校生の頃、徳島駅前のレコード店で八+八を買ったのだ。今はないレコ屋のことを、広島のタワレコで思い出しました。
 初めて自分で探したCDだったと思います。ゆらゆら帝国が解散したばかりで、もしも大学で県外行けたらライブに行けたのに。と思いつつ大学受験が終わった頃、YouTubeで坂本さんみたいな人おるやん、と思ったら、オレンジ色のシャツを着た廣井さんでした。
 ゆらゆら帝国や壊れかけのテープレコーダーズは、お父さんにAmazonで買ってもらっていましたが、このジャケットは後でお父さんにお願いするの厳しいな、と考えたような気もします。


 そうそう、私がライブ処女を捧げたのは、八十八ヶ所巡礼やった。
(突然キモいことを言い出すバンギャ)


2012年頃に描いた姉さん


 初めて行ったのは札幌COLONY(ここも今は閉業しとる)のライブで、初めて一人でそういうイベントに行ったけど、スピーカーに近い方の耳いわすかと思ったけど、本当に本当に、幸せだった。

 今まで大概な田舎にいたもんだから、自分が好きな漫画や歌を作っている人は、画面の向こう、別の世界にいる人だと思ってました。でも目の前で、廣井さんは一人一人の顔を覗き込んでくるし、シミズ先生は髪靡いてるし、賢三さんは後ろで煙草蒸してた。
 それ自体が、好きという気持ちを殺さなくていい、と言う安心感をくれたように思います。



 2012年から2〜3年くらいは毎年ライブに行っていた覚えがあるのですが、段々学校やバイトでいっぱいになって、ライブに行かなくなってしまいました。
 社会人になってからも生活に一杯一杯でした。外出もSNSも億劫になり、YouTubeでただただ同じゲーム実況動画を繰り返し再生し、一日中電気カーペットに横たわるという休日が続きました。

 ある時、ゲーム実況を再生しようとして、新着動画に久しぶりに見る顔がありました。



 数年ぶりに八十八ヶ所巡礼の曲を聴きました。今までとの曲調の違いに驚いたことと、クリスマスにわざわざ『きょうかんできない きょうかんしない』と歌う廣井さんに、救われたような気持ちになりました。
 すぐにライブに行ける状況じゃないけど、早くこの生活を変えて、八十八ヶ所巡礼にまた会いたいと思うようになりました。




 結局国家試験の不合格やら転勤やらで、更に約3年が経過してしまうのですが、先日やっと広島4.14で、八十八ヶ所巡礼に会えました。

 最初の演目が、エイトビイトな人々。これは、私が学生時代の最後に買ったアルバムの、一番最後の曲です。アニメのエンディングテーマみたいだとずっと思ってるのですが、お帰りって言われてるような気分で、すごく嬉しかった。

 相変わらずシミズ先生は王子だし、賢三さんはイカついし、ほんでやっぱし、廣井さんみんなのことめっちゃ見てくれてるなって思った。あぁ〜マガレさんと目が合った!ってやつを、8年ぶりにやりました。

 あと、廣井さんのMCが、前と変わったと感じました。脈絡のない話ばかりだけど、嫁か旦那か子供ができた人みたいな、何か守るものがあるための痛みを知っているような、落ち着いた雰囲気を感じました。
(でも、『賢三は、銭湯が好き!かっちゃんは多分歯医者が好き!』って、少年っぽさも残ってて良かった。)

 『俺らはこれから音楽で、みんなの好きな場所を再現するね』って言って、でもその後『やっぱムズいw』ってはにかんでて、あれっこんなに人間らしい人だっけ?魔族じゃねーのかよ?って。
 みんな、ライブハウスのあの時空間が、好きだったんじゃないかな。




 こんなに幸せになったのは久しぶりでした。

 用水路に落ちた三輪車みたいに、毎日ドブの中に沈んでいくような気分で、否応なくこの鈍い苦しみに耐え、ひとり見えないところへ消えるのが人生なのだと思っていました。

 だから今、視界がクリアになってる感覚が新鮮で、ちょっと怖い。好きなものがあるとか、やりたいことがあるとか、それはとても素晴らしいことで、しかし誰かに犯されるものではないのだ、本来は。
(誰か、の中には自分もいる)




 好きを殺さないでいいのですね、本当にありがとう。八十八ヶ所巡礼と曲がずっと大好きだし、またライブに行きます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?