みち
どの道を選ぶべきなのでしょうか――。
道に。
迷ってしまいました。
私は、如何やら迷子になってしまったようなのです。
ネット活動を続ける道を、早々に見失ってしまったので御座います。
剰え。
人の倫をも――。
事の起りは、上司に命ぜられて、渋々とも諾々とも趣味を探し始めた折のことで御座いました。
嘗てクッキー☆声優を務めた然る御方を、国際的な然る学会で識り、
――これは仕事の役に立とう。
そう思って彼の芸当こそ目標と為た訓練を趣味に充てたのが、元を糺せば、現在のネット活動の契機だったので御座います。
訓練を一半年ばかり続けた頃、更なる向上には他人様からの辛辣な評価が要る――そう思ったのでした。
そこで。
ニコニコ動画と云う名の、ゲイビデオの継ぎ接ぎで草を生やし合う下卑た動画共有サイトに、かの四章を己が拙い女声で吹き替えた、糞便にも劣る塵芥動画を投稿したのです。
それも。
如何にも人を舐め腐った、ぽんすと云う巫山戯た名義で――で御座います。
駄洒落も駄洒落――他人様に呼ばれる心算も欠けた、洒落るも戯れるも無い下らぬ下ネタです。
迚も迚も、何某二号などと呼んで戴くには忍びない身分に御座います。それはもう、本来の一号様に、何の申し訳の立たぬ、恐れ多き非礼に御座います。
話が脱したようですが、それが。
その初投稿が。
今日から殆ど丁度、三四ヶ月前のことなのです。
たった小半年――。
それだけの短期間の内に、ネット上での身の振り様を思い悩むようになった訳ですから、全く恥ずかしい話で御座います。
その塵芥動画を。
ごく短く加工して投稿し直したのが、これまた塵芥動画の第二作なのでした。
かのサイトの住民は、ゲイビデオをば冒涜的な汚物と評する一方で、それを捏ね繰り回して創った面白動画をば無上の悦びと為ているのですから、まあ異常と云えば異常なのでしょう。
――異常な連中が相手なら、常軌を逸した塵芥であっても、マナインの範疇に在る裡は多少の受も有ろう。
そう思ったのです。
けれども私の第二作は、塵芥を多少より小さく削ぎ落しただけの、寧ろ凝縮された塵芥、塵芥の中の塵芥だったのです――第一作から他人様の評価を受けなかったのだから、第二作の評価など、最初から当に期待できるものでは御座いませんでした。
実の目的は、別に在ったので御座います。
それは、第一作にて甘んじて受けた端末規制を、第二作にて回避することでした。
それでも。
二本共々、殆ど全く評価されず――結局を申せば、私は失敗ったのでした。
それからの私と云えば。
訓練こそ続けて居たものの、進んで上達を目指す心持ちをすっかり失って居りました。
否。
ここ数ヶ月の間にも、訓練の成果は在ったようにも思われます。しかし、それが他人の御耳に触れるも入れるも値しないと知って、やる気を失い始めたので御座います。
替わって興じる遊戯となったのは、我らが王、かの偉大な雁木先生の真似事で御座いました。
若しや之なる駄文を御読みの貴方も、Xとか云う掃き溜めにて、件の面白くも何ともない唯だ唯だ不快なだけの糞動画を、ご覧になったかも知れません。
ええ。
あれは、正真正銘の糞動画で御座います。
己の眼耳で視て聴いて面白くないのです。況や視聴者様をや――。
それで。
そう――なのです。
訓練の成果を他人様から辛辣に評価して戴けない現状で、ネット活動を続けるべきか否か、頭を悩ませるに至った訳で御座います。
けれども。
それだけが理由なのではないのです。
判然と申せば、才能が無いのです。
女声の、とは敢えて申しません。命ぜられて始めた趣味に御座います。最早そう簡単には手放せぬものなのです。もう二年にもなりますか――その間の努力を水の泡に帰すことも、凡そ望めぬことで御座います。
才が無いとは、詰る処、ネットそのものなので御座います。
ニコニコ動画を始めて淫夢に片足を突っ込み、殆ど遅れる事なくXにも手を出してクソリプを飛ばし、そして之なるnoteにまで活動の場を拡げ、それで漸く気が付いたのです。
否――漸く、ではないのでしょう。
今となってこそ思うに、薄々と、否、寧ろ実感すること強く――向いていないと云う反省が、常態となって居たので御座います。
慣れたと申しましょうか。
ええ、次第に慢性化したので御座いましょう。
ネット歴、小半年。
能くそれだけ持ち堪えたと考える方が、私の性癖には合っているのでしょう。現実の人間関係に負けず劣らず、仮想の遣り取りに於いてさえ、私は――。
私は。
そう云う人間なのです。
性と申すか。
癖と申すか。
質と申すか。
星の下と――生まれの所為と申すか。
それは。
それは如何でも可いことで御座います。
要するに。
ひとでなし――なのですよ。
私は。
如何して上手く行かぬ。
そう云う星の巡り合せと、割り切ってしまえば慥かにそれで善いのでしょう。生きるも死ぬもひとは独りで御座います。然らば幕なぞ手ずから引くことはないので御座いましょう。開けっ広げに放って置けば善いのでしょう。
どれだけ生きようと。
どんな者と共に生きようと。
けれども。
拒まれたなら――如何なのでしょう。
仕事柄――と申せば哀しいことで御座いますが、慣れては居るのです。
私共は皆、御客様の奴隷なのです。自ら進んで志願して、文字通りに必死たる試練を越えて、そうして漸との思いで御客様の前に立てた身で御座います。念願叶って相成った、忠実なる僕なので御座います。
我らが御主人様が我ら僕を厭うことは、まま在るのです。決して少なくない処か、寧ろ私め等を疎んずる御方の多いこと多いこと――。
悲しいけれども。
それは、そのようなものなのです。
如何と云うものでは御座いません。
多くの場合、その御方が自ら次なる奴隷の前に御身をお移しになるか、或は我々奴隷が迅速な連携を経て交代するのです。
要は、回避する――。
逃げるのです。
御主人様か、或は我ら奴隷か、何れか一方が。
人間関係の問題と云うのは、往々遁げるが無難なのでしょう。
ひとでなしの私には測り知れぬ知恵で御座いますが――。
しかしそれでは。
何方かが逃げた処で、逃げた先にまた気に喰わぬ者が待って居れば、延々逃げることになりましょう。
それは。
それは困るのです。
結局、誰も嬉しいことなんか無い。
淋しいだけです。
価値観が違って、互いに勝手が判らないのがひとの自然で御座いましょう。違うと云うだけで互いに外方を向くばかりでは、それはもう双極子磁石を撒き散らすが如き混乱で御座います。
上手く行く組合せだけが得をする。
組合せに恵まれぬ者は唯だ好機を待って、唯だ待って、それまで無為に反発を繰り返すのみ――。
それは。
主人も奴隷も困るばかりか。
双方おおいに侘しいことでは御座いませんか。
だから私は、いつも御主人様に乞い願い申し上げるのです。
――私共は皆自ら僕と成るべく勉学に励みし身なれど、この私めは何を隠そう大莫迦者に就き、皆目見当も附きませぬ。
――御主人様は、
――私めに何を御所望なのですか。
他人の気など最初から解らぬもの。
しかし解らぬと雖も判らぬとは限らぬ。
判らぬものは判らぬで、教えて貰えばそれ以降――憶えて居る限りは――判じ兼ねることも無くなろうと、私はそう思うのです。
実際、職場の感触としても。
斯様の世渡りも、まあ悪くはないように思われるのです。率直に己の不足を訊き出した処で、例の遁走に較べて見て、御主人様からの受が特別悪いことはないのです。
それでもネットでは。
それが。
叶わぬのです。
嫌われるまでは良いのでしょう――勿論そうならぬが吉ではありましょうが、けれども違うことは避けられぬし、違えば嫌うはひとの性に御座います。
嫌われて。
それで。それっきり。まるで子細を尋ねる手段が無い。
其処が怖い。
価値観を知りたいのに。
己が悪さをこそ悔い改めたいのに。
この身の不足を能く能く知る分、唯だ厭がられる一方で我が身の厭みを改めようにも改められぬのが――。
恐ろしく怖いのです。
否。
何より、申し訳が立たぬ。
こんな奴隷風情が、人様の御気分を害して善い筈が無い。
そんな道理は無いでしょう。
道は。
みちは、無いのです。
それは、人の倫にも反する不足で御座いましょう。
思えば――。
私は。
いつ見失ったのだったか。
ネット活動に難渋した瞬間か。
否、淫夢に手を染めたその時からか。
嗚呼、自ら奴隷に身を窶した頃からか。
違う。
違う違う違う違う。
多分私は。
きっと私は生まれた時から――。
然らば。
私は。
私は一体――。
どの道を選ぶべきなのでしょうか。
みち――了
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