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【ひきこもりのニンゲン採集記録】#02 ロマンスグレーなおじさまのサンリオ推し活を垣間見る

ひきこもりのニンゲン採集記録とは

私は生粋のひきこもり気質。それに加えてプロのこたつむりなので、気を抜くと、こたつを背負って微動だにしないまま春を迎えます…。
どうにか外に出たときは、見かけた人についての採集記録をします。

採集情報

場所:山手線
時間:昼間
対象者:シックなお召し物の男性(60代後半…?)
採集者の気持ち:帰りにファミチキ買いたいな。

記録

ロマンスグレーのダンディな髪型に黒いハットと、重厚感のあるロングコート、ダークな色合いのなかに、ボルドーのネクタイを締めた紳士が目に入る。
まじまじと他人をみるのは失礼と思いつつも、洗練された装いに、思わず「ほう…素敵…」と見入ってしまった。

おや…?と違和感を覚えたのは、手元に目線がいったときである。おじさまのみつめる手元のスマホには、クロミのシールが貼られていた。

キラキラと輝くラメで描かれたクロミは、スマホの7割程度のサイズ感をしめ、かなり存在感がある。 
「…サンリオキャラクターが好きな孫にでも貼られてしまったのか。そのまま貼ってあげてるなんて優しいな。ふふ」とほほえましく、おじさまへの好感度を勝手にあげていた。

そんなときである。動画を見始めたのか、おじさまがスマホを横にすると、おじさまの手に隠れていた部分から、キラキラ光る紫色で描かれた「くろおじ」という言葉が現れたのだ。
よくよくみると、おじさまの皮の鞄には後ろ向きになったクロミがくくりつけられているではないか。

これは・・・!孫じゃない、おじさまの推し活だ!!!

おじさま(以降、タチバナ氏)の推し活の経緯

(※すべて憶測です。)

タチバナ、クロミに出会う

タチバナが自身の好みに気づいたのは、定年退職し、数十年ぶりに生活にゆとりを持った、そんなときであった。

週末、娘から孫の子守を頼まれた。娘は妻とともに観劇に行く予定があり不在であった。
タチバナの次女の娘であるアヤネは今年8歳、半年前に家族で訪れたサンリオピューロランドをいたくお気に召したようだ。孫と2人きりで過ごすことのないタチバナは少々張り切って、孫にピューロランドを提案した。

ショーにアトラクションを一通り楽しみ、ご満悦のアヤネと土産物屋に訪れたときであった。
アヤネに「いちばん気に入った子を1つ連れてかえろうか」と提案すると元気よく頷き、土産屋に駆け出していった。

しばらくすると「アヤネはシナモン、おじいちゃんはこれ」といって黒ずきんをかぶったうさぎのキャラクター「クロミ」のぬいぐるみを渡してきた。

タチバナは困惑しながら「おじいちゃんは大丈夫だよ。そのうさぎもほしいのかな?」とアヤネに尋ねた。

アヤネは心底不思議そうな顔をしながら「え。いちばん気に入った子連れてかえるんだよね。おじいちゃんのお気に入りクロミちゃんだよね。今日ずっとニコニコでクロミちゃんみてたよ。お昼もクロミちゃんのお顔のったの食べてたし。帰ってもおじいちゃんのクロミちゃんとアヤネのシナモンで遊べるね」とタチバナを見上げた。

タチバナは良くも悪くも古くさいニンゲンであった。息子には武道、娘には日本舞踊とピアノを習わせ、文化的教養を大切にするとともに、”男とはかくあるべき”といった理想論を持つ、をのこであった。
同時に孫娘のアヤネにはめっぽう弱く、娘にも「買い与えるのは1つまで」と事前に何度も釘をさされていたほどだ。

タチバナは混乱していた。”一介のおじさんが傍目にわかるほど、サンリオキャラクターに惹かれている”という受け入れがたい事実と、目に入れても痛くない愛らしい孫のまっすぐな瞳。
「まあ、アヤネに持たせればよいでないか。一人一個ではあるわけだし…」と言い聞かせ、2つのぬいぐるみを持ち会計へ向かった。

どうやら昔からかわいいもの好きだったタチバナ

「あら。あなたもぬいぐるみ買ってらしたのね」
アヤネに買え与えたつもりが、「おじいちゃんのクロミ」と結局持たされてしまったクロミを連れて帰宅し、こそこそと書斎に持ち込もうとしたときに限って、妻は目聡かった。

「違うんだ。これはアヤネに」と思わず言い訳をしてしまう。
「昔からかわいらしいもの好きだったじゃない。そのキャラクター、あなたが好きそうなキャラクターだなあって前から思っていたのよ」

タチバナは再び困惑した。
タチバナは自身のことを、厳格な夫であり、父親であるとの自負があった。老年にふさわしく、友人とは囲碁やゴルフを楽しみ、都々逸やヴィオラを嗜んでいる。サンリオキャラクターといった子どもや女性が好むものとは縁遠い存在のはずなのだ。
だが、いま妻はそんな夫に対し、”かわいらしいもの好き”と認識しているらしい…。

「私はかわいらしいもの好きなのか…?」
「え、そうよね?昔からキャラクターのいるテーマパークに行くと誰よりも楽しそうにしていたし。まちなかでキャラクターをみかけたときもよく夢中になって目がおっているじゃない。」
「知らなかった」
「ふふ。満面の笑みでぬいぐるみ抱えておいてよく言うわ」
「…65歳の爺が…」
「そんなことないわよ。最近は推し活っていって、男女年齢かかわりなく、アイドルやキャラクターを応援するのよ。今日行ったライブでも小学生から80代くらいまでいろんな人がアイドルを応援しに来ていたわ」

そこからタチバナは早かった。インターネットで読んだ、推し活はタチバナに十分な勇気と行動力を与えた。少し恥ずかしさはあるものの、身に着けるものが目に入るだけで活力が湧いてくることはタチバナにとって初めての感覚だ。疎かったはずのSNSを駆使した。推し活について様々なことを教えたポムポムプリン推しの20代の先輩に「クロオジ」と呼ばれたことから、SNSではクロオジと名乗っている。

…とすべて憶測、というより後半はほとんど妄想だが、かっこよいダンディなおじさまでした。
なんか長々書いてしまった。













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