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人生の正中線を見つける
正中線と人生の軸
正中線とは、武術やスポーツでよく言われる「身体の中心線」のことです。正中線がまっすぐであれば、立ち姿は美しく、姿勢も安定します。しかし、動いているときに正中線を常に直線のまま保つことはできません。むしろ、時には若竹のようにしなやかにしなることが必要です。正中線を鉄の棒のように固定しようとすると、かえって怪我につながります。
正中線上には、多くの急所が集まっています。そのため、攻撃の際の重要なターゲットとなり、防御の面では最も守るべきラインにもなります。まさに「陰陽の理」そのものですね。
正中線を意識する実験
ここで、簡単な実験をしてみましょう。
1. 相手に正面に立ってもらい、肘を伸ばした状態で手のひらを合わせて、お互いの正中線に向かって左右に押し合ってみてください。
2. 手の位置が肩の内側、つまり正中線上に近づくほど、より強い力が生まれます。
3. 逆に、肩の外側に手があると、驚くほど力が入らず、押し返すことが難しくなります。正面が開いていることで隙ができ、攻撃されやすくなります。
4. 次に、肘を曲げ、手のひらを自分の身体に近づけてみましょう。すると、より少ない筋力で押し返すことができるはずです。
このように、正中線だけでなく「正中軸」を意識すると、身体の使い方がより合理的になります。
正中線と正中軸の違い
「線」というと細い一本のラインを想像しがちですが、実際には身体の中心に円柱のような「軸」が存在します。正中線は、鼻先などの前面で意識しやすいですが、正中軸はもっと奥、背骨の近くにあると考えられます。そして、この軸を中心とした動きは、正面だけでなく360度全方位に及びます。
その軸がカバーする範囲は、XY軸の二次元の円形だけでなく、Z軸(上下方向)まで含めると、範囲は球体になります。この球体こそが、自分の「間合い」であり、視覚でなく「気」で感じる領域になります。
三軸の考え方
人は二本足で立っています。そのため、正中軸を支える両股関節にも軸が存在します。つまり、正中軸+両股関節の軸=三軸 という構造になります。身体操作では、正中軸をどちらかの股関節の上に移動させることで、二軸になる瞬間もあります。この三軸と二軸の切り替えが、合理的な動きを生み出す鍵となります。
武的身体操作については、いずれ別テーマでシリーズ化して書き留めてみたいと思います。
心の正中線
身体の動きは、そのまま心の状態を映し出します。「心身一如」と言われるのも、このためです。武術を単なる戦いの技術ではなく、人生に活かすことができれば、それは「武道」へと昇華していくでしょう。
では、人生における「正中線」とは何でしょうか?それは、「筋の通ったブレない生き方」 ではないでしょうか。自分の軸をしっかり持ち、確固たる価値観を持つことで、人生の方向性は揺るぎないものになります。
では、両股関節の軸にあたるものは何でしょう?それは、家族、友人、先生、上司、同僚、部下 など、自分を支えてくれる人々の存在だと考えれます。
しなやかな軸と感謝の心
前述のように、正中軸は「しなやかさ」が大切です。こだわりを持つことは大事ですが、行き過ぎれば頑固になります。
また、軸を感じるためには「脱力」が必要です。身体が緊張していると、自分の正中軸を感じることはできません。
人生も同じです。全力で突き進むことも大事ですが、ずっと力み続けていると、健康を損なうか、心が折れてしまうかもしれません。あるいは、支えてくれる家族や友人が離れてしまうこともあるでしょう。
謙虚さは、正中線(軸)を見つける鍵となります。そして、感謝の心は、両軸の存在に気づき、それをしっかりと自分の支えとして保つための力になります。
武術の理を人生に活かし、しなやかな正中軸を持ちながら、感謝と謙虚さを忘れずに生きること。それが、人生における「ブレない強さ」へとつながるのではないでしょうか。