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とても幸せな人の話
「「うどん!」」
2人の声が同時に響く。
「またそろったね」と隣で微笑む彼。
彼とは同じ職場で、彼と話す時間は残業続きの毎日の中の束の間の幸せだ。
その日も残業だったので、遅めの夜ごはんに何を食べに行こうか、と話していた。
2人でいる時間が長くなるにつれてよく似る、とよく聞くが、これは本当なのかもしれない。
似てくるどころか、同じタイミングで、同じ考え方、同じ話し方、同じ癖をするようになってきた。
彼のことが大好きだし、彼も私のことが大好きだと思う。
2人の趣味は共通して、カラオケだ。お互い好きな曲や、今はまっている曲を紹介する。
彼が紹介してくれた曲は何度もリピートするし、彼も同じ。お互い、影響しあう。
時折、「この曲ちょうど私もチェックしてたんだ」といったときもあり、そのたびにどこか温かい気持ちになる。
少々きついことがあっても、彼との時間がある限りは、私は生きていけると感じる。
朝は彼からくるメッセージ
「おはよ」
夜は私が
「おやすみ」
と送る。
特別決めたわけではないが、私は朝が弱くてなかなか起きることができない。逆に、彼は気絶したように寝るので、自然とこのやり取りになった。
お互い、メッセージはマメなほうで、会えないときもとりとめもない話で盛り上がる。
やはり、返信が遅くて何をしているかわからない男と比べて、返信が早い彼は安心する。
仕事が一緒なので、同じプロジェクトのメンバーになることもある。
仕事仲間には、2人の関係を公表していないため、ちょっとした背徳感がある。
「だいすき」
ミーティング中に、メッセージを突然送ってきた彼。
どうしてもにやけが抑えられない私は、彼を睨む。
彼はまるでいたずらした少年のような顔をしていた。
そんな出来事も、私の小さな幸せだ。
「あなたって、絶対いいお父さんになるよね」
普段から比較的面倒見がいい彼に子どもができる姿が容易に想像できた。
「それを言ったら、君も素敵なお母さんになるよ」
私のほしい言葉が返ってきて、少し安心する。
2人の間のこどもはきっとかわいいだろうし、私は親バカになる可能性があるなと思う。
「そういえばさ、俺こども生まれるんだよね」
「え、そうなんだ!おめでとう!」
「ありがとう」
「奥さんのことちゃんといたわってあげないとね」
「そうだね~」
出会うのが少し遅かっただけ。
そう言い聞かせて、私はまたこの瞬間の幸せをかみしめる。