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ハリスが負けたのは、「リベラルが嫌われてるから」だけでは無いのでは?

ハリスが負けた。

さっそく、
「やっぱりアイデンティティポリティクスや、ポリコレはクソなんだ」とか「やっぱりな。民主党が高学歴左翼のための政党になった当然の報いだ」という声が見られる

まあ、それは間違っては無いだろう。

「トランプ王国」で著名な金成隆一氏の寄稿だが、地方の元民主党支持者に見捨てられる民主党を、まざまざと描いている。


金成隆一氏が描く民主党を見捨てる労働者たち

印象的な2か所の部分を、ちょっと長いが引用してみる。

最も象徴的な動きは、マホニング郡警察の保安官(Mahoning County Sheriff)ジェリー・グリーンが次の選挙に共和党から出ると決めたことで、地元政界で最大の話題という。保安官は任期4年の公選職で、グリーンは民主党候補として3回連続で当選してきたが、昨年12月に鞍替えを発表したという。
地元紙によると、グリーンは「国政や州政治では、私の意見は(民主党より)共和党により近いと感じている」「国政では共和党の保守運動は、左派より法執行機関をはるかに支持している。私が長い間、悩まされてきたことだ」「自分の信念のために鞍替えの時期が来た」と理由を語った。

これは明白な鞍替えの説明だ。これに対する民主党側の反応はどうだろうか。

地元の民主党委員長クリス・アンダーソンは「ジェリー(・グリーン)は傑出した役職者だ」と仕事ぶりを認めた上で、「全国民主党との意見の相違を理由に彼が去っていくのを見るのは残念だ。全国民主党(の振る舞い)が、彼を民主党員と自覚できなくさせたと理解している。私には全国民主党をコントロールする権限が一切ない」と述べた、と地元紙は伝えた。民主党サイドから対抗馬を立てる意図がないことも明らかにしたという。

国政レベルの民主党に対する、地方の民主党幹部が抱える不満がのぞくようなコメントだった。

強調は筆者

11月に選挙を控えているためか、いつもより慎重なので、これまでの取材内容も踏まえて整理すると、次のようになる。ポリフカは「ケネディ時代の民主党」について、こう説明してきた。

「当時の民主党の考え方は、今ではまるで共和党のように聞こえるだろう。私見だが(今の)民主党は聞こえてくる全てのグループの主張を聞き入れ、彼らを満足させようとしているように感じる。一定の支持を得られるだろうから、それでもいいんだが、この辺りの人々は伝統的なケネディ時代の民主党を求めている。もっと保守的で、もっと『家族の価値』を掲げていた。今とは違った」

民主党が進むべき道については、こう語った。「この辺りでは、民主党は『働く人々の政党』ってことを強調すればいい。全米規模でも民主党はもっと真ん中に戻る必要がある。リベラルになってはダメだ。リベラルに寄ることは民主党を痛めることになる

ニューヨークやサンフランシスコなど沿岸部の都市圏で暮らすリベラル派と、中西部のような内陸部の穏健派という民主党内の溝は大きくなるばかりだという。「私たちはもっと保守的で、家族の価値、労働者の権利、武器を携行する権利を訴える。この辺りには、LGBTQ(性的少数派)とか『黒人の生命も大切だ』運動にうんざりしている人々がいる。それらも大事だが、ただ過剰だった」

「民主党候補は、もっと労働者の権利を中心に訴えた方がいい。私も10歳の頃から新聞配達で働き始め、16歳で市の公園整備に携わり、高卒後はずっと建設業だ。父も週7日間働いていたから、それが当たり前だった」

民主党をもっと穏健派の立場に戻さないと中西部での支持は取り戻せないという主張だ。

強調は筆者(引用者も込み)

まあ、こういう声を聴いてしまうと、「リベラルが負けたのだ」
「リベラルは、暴言まみれで議事堂襲撃を引き起こすようなトランプよりも信頼されてないのだ」 と言いたくなる。

私も、近年の先進国左派のあり方には、大いに違和感を持っているので、そういうセリフには肯くところもある。

ただ、今回の選挙に限って言えば、「リベラルが嫌われている」事だけがハリス敗北の原因ではないと思う。

そもそも、激戦州では、トランプとハリスの支持率がそんなに離れてない。NHKの選挙サイトを見てみよう

選挙結果を見て思った事

https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/us-election/
20241108
23時スクショ

十分に差があるじゃないかと思う人もいるだろう。

ただ結果が確定しており、かつ、一番差があるノースカロライナでも、支持率の差は3.4%なのだ。

アリゾナがこの調子でいけば支持率は5.9%差になる。

それでも、共和党・民主党が圧倒的に強い地域に比べたら、遥かに小さな差だ

例えばハリスの地盤のカルフォルニア、支持率の差は18.8%もある

https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/us-election/
20241108 23時スクショ

逆に共和党が伝統的に強く、もちろん過去の選挙でもトランプが勝ってきたカンザス。支持率の差は16.4%だ

https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/us-election/
20241108 23時スクショ

こういう州では、基本的に結果は初めから分かっているようなものだ。
だからこそ、最終的な勝利には激戦州が重要だといわれるわけだ。

その激戦州で、支持率の差が、あの位であるという事は、トランプの圧勝ではなく、むしろハリスの自滅に近いのだと思う。

では、ハリスは何をミスしたのか。それを考えるのに一番いいのが、以前も紹介した渡辺将人氏の論考だ。

渡辺将人氏の描くハリス陣営の困難

この論考は、まずアメリカにおける「予備選」の重要さを語る。

日本では予備選って予選でしょくらいに思われがちだが、実は極めて重要な役割がある。

まずは、政策論議だ。つまり共和党なら党内右派VS中道派、民主党なら党内左派VS中道派の戦いになる。同じ党内であり基本的価値観は共通しているからこそ、容赦ない攻撃にさらせれるわけだ。

さらに、予備選では、自党が強い州の中で自党員や有権者から支持を得るということが必要になる。

本選は上で見たように実際には、激戦州の奪い合いであり、結果が固定しているような州は、そこまで優先度が高くない。

しかし予備選は身内を納得させる必要があり、それを多くの州で行う。

結果、予備選の勝者は「アイオワの農村でも、サウスカロライナの黒人にも、ネヴァダの中南米系移民にも、認められたということが、党内説得性を高める。」という状態になるわけだ。

この厳しい戦いを1年かけて行う事で、候補者だけでなく、陣営スタッフも鍛えられる。

候補者は政策論議を通じて党内を平定でき、陣営スタッフは、本選に向けてのさまざまな経験値や人的関係、州ごとの有権者の情報もゲットできるわけだ。

さて、ここでハリス陣営について話すと、トランプに負けるのを絶対に避けるために、民主党は党を挙げてハリスを支援する事になった。

そして元オバマ陣営やヒラリー陣営などから優秀なスタッフを集め、突貫工事でハリス陣営を作ったわけだ。

しかし、「ドリームチーム」とも呼べるハリス陣営も、予備選の経験なしでいきなり本選に向かう事は初めてであった。

さらにハリス陣営にとって厄介なのが、予備選による政策論議を通した党内平定をしておらず、そしてなにより現政権の副大統領であるハリスは、政策に対しては曖昧戦略で行くしかなかったことだ。

左派的政策を打ち出せば、党内中道派から反発されるし、逆もしかり。
さらにどんな政策を打ち出しても「ではなぜ、やらなかった?」「では今やるべきだ」と反論されてしまうからだ。

とはいえ、かつてのオバマの様に(今回ならヴァンスも該当するが)
生い立ちを前面に押し出す方法もあるはずだ。

しかし渡辺氏は、その戦法もハリスには難しかったという。

ハリスは、母がインド系1世・父がジャマイカ出身で、母に引き取られて育てられた。またカナダのフランス語圏で暮らしていたこともある。

つまり、黒人とインド人の血を引き、家庭内文化はインド系で、カナダで暮らしたことのある帰国子女というかなり国際的な人物である。

しかし、渡辺氏によればアメリカは「多重属性」というのを認めたがらない。

ゆえにハリスは、「アジア系政治名鑑」に登録していたのだが、2020年以降は「黒人」として売り出すことにした。

しかしこれでは、ハリスの生い立ちを売り出すには、足枷の状態になっている。(なんといっても、アジア系である事に触れられないのだから)

また、こういった生い立ち戦法をとる場合でも、予備選は使えるのだが(オバマはまさにそうやってきた)、やはり予備選を経てないハリスは、生い立ちに関しても曖昧戦略をとらざるを得ないわけだ。

その結果、ハリス陣営の現場はこんな羽目に陥った。

ハリスは全人生をそのままストレートに伝えることもできない制約がある上に、論争も経ていない。オバマやヴァンスのような、政治家になる前に書いた本もない。
だから「薄い」ハリスを売り込まざるを得ず、人工芝を天然のように見せるためのキャンペーンにどうしてもなる。本当は十分天然の素質があるのに人工芝で売り出すことになってしまったとも言える。

現場は苦しんでいる。戸別訪問のボランティア学生が地域事務所に訴えるのは、有権者に「カマラはどんな人なのか?なにが哲学なのか?」と聞かれても答えられないもどかしさだ。

事務所では「カマラについて説明する」無理な努力を強いず、話を「トランプ再来の悪夢」にすり替えることを指導している。

強調は筆者

私の妄想

長々説明してきたが、今回の選挙は
「キャラと政策が明確・大統領経験者で陣営にも経験がある・野党だから現政権を批判しやすい」トランプ
VS
「キャラや政策に関しては曖昧戦略をとらざる得ない・陣営が急造で経験不足・よりによって現政権の副大統領」ハリス 
という戦いだったわけだ。

この戦いで、激戦州であの程度の支持率の差なら、リベラル派はまだそこまで嫌われてないと思う。

(ただ、隠れトランプ嫌いが結構いる可能性も否定できない。トランプの政策は支持するけど、人格は全く支持できない。いくら政策が重要と言っても、大統領にふさわしい人格ってもんがあるだろと思っている人達だ)

という事で、民主党はちゃんと建て直せば、意外と4年後は大丈夫かもしれない。

ただ、今回の敗北を受けて民主党内では、だれかが責任を取らされるだろう。そしてだれに責任を取らせるかで、党内左派VS中道派の最終戦争が始まるだろう。

こっからは完全に妄想だ。

まずは、党内中道派が責任を取らされるパターンだろう。

党内左派から「お前らがバイデンを引っ張るから、こんな難しい状態で選挙に臨むことになったんだ」と言われ、腹を切らされるパターンだ。

この場合、共和党がトランプ党になったように、民主党はサンダース党(もしくはウォーレン党)になるのだろう。

まあ、会田弘継氏が良く言っているように、トランプ主義とサンダース主義は、経済政策・福祉政策という観点では非常に似通っている。

よって、党内中道派が腹を切らされた場合は、本当にアメリカ人の思想に変動があった事になる。

それとも党内左派が責任を取らされるのか

渡辺将人氏の分析では、「バイデン降ろし・ハリス担ぎ」を行ったのは党内左派らしい。

その分析が正しければ、党内中道派から、「そもそも、お前たちがバイデン降ろし運動を始めたから、急造ハリス陣営で選挙に臨む羽目になったんだろ! バイデンのままなら2020年の遺産もあったのに・・・」と言われ、党内左派が腹を切らされるパターンもある。

まあ、これに関しては本当にどうなるかわからない。というより、アメリカ政治がどうなっていくのかなんて誰にも分らないだろう。

ただ一つ言えるのは、民主党の党内最終戦争が長引くほど、次回の選挙でも不利になるだろうな・・・という事だ。

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