【ショートショート】用法用量を守って【トラネキサム酸笑顔】
用法用量を守って
トラネキサム酸笑顔は皆の心を癒やしていた。人体の不調を和らげる手助けをしてくれるトラネキサム酸は、この体にとっては笑顔の伝道師。不調がなくなった、と嬉しそうな臓器たちを見て、トラネキサム酸はもっとニコニコ。張り切るのも無理はない。頑張る様子にみんなもっとニコニコ。
が、一人だけ、肝臓だけは仏頂面で黙り込んでいる。トラネキサム酸は心配になって、ついに話しかけた。
「あの」申し訳無さそうに声を掛けるトラネキサム酸に、肝臓は「ああ」と言った。もともと口数の多いものではないが、トラネキサム酸はなんと言えばよいのか分からなくなる。
「あまり無理しないように」
肝臓は、それだけを言った。
数日後、トラネキサム酸のおかげで調子が良かった体が、再び不調に見舞われた。トラネキサム酸は懸命に動き回る。
「大丈夫ですよ、私がいますからね!」
そんな呼びかけに、肝臓は返事をする。
「副作用……」
しかしもう、トラネキサム酸の姿はなかった。
毎週ショートショートnote
お題「トラネキサム酸笑顔」
文字数410字
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気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)