【ショートショート】三十二歳のおままごと【二重人格ごっこ】
三十二歳のおままごと
今週四歳になる姪っ子へ誕生日プレゼントのままごとセットを発送し、倉田孝は会社へ直行した。
「お疲れさまです!」
腹から振り絞った声が、朗らかに響く。
内気な性格の孝は、会社ではこうして無理に明るく努めている。理由は単純。その方が生きやすいと気付いたからだ。家族からは「無理するな」と言われたが、孝は他にどうすればよいのか分からなかった。
ある日、孝は忘れ物に気がついた。会社へ戻ると後輩たちがなにか噂話をしている。
耳を澄ますと、
「孝先輩、ちょっとウザい」
「なんか無理してる感」
孝は黙ってその場を去った。いつものことだ。もう一人の自分はいつもこうして陰口を叩かれる。
姉からお礼のメールが届く。姪っ子は毎日おままごとをしているらしい。孝も同じだ。プラスチックの人参を切るようにしてパソコンを開き、母の真似をするようにして電話を取る。内気で臆病な自分を盾に、皆から好かれる自分を通すのだ。
それはさておき、孝は、最近あまりよく眠れない。
毎週ショートショートnoteより
お題「二重人格ごっこ」
本文410字
気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)