【ショートショート】小心者の山としっかり者の湖【逆さ富士七転八倒】
小心者の山としっかり者の湖
昔々。麓の湖は、富士山が震えているのに気がついた。確かにこの時期は寒いが、震え上がるほどではない。
「もしもし、富士山。どうしましたか」
湖は気になって、富士山へ具合を尋ねた。
「人々が私を見ているのが気になって……」
湖が外へ目をやると、確かに人々がこちらを向いて拝んでいる。
「今日は一年の始まりの日。縁起のいいあなたを拝んでよい年になるよう願いたいのです」
しかし当時の富士山はシャイだった。多数の人の期待に耐えられず、ついに転げ回ってしまった。新年早々地震に見舞われ人々は涙目。穏やかな湖も流石にこれには怒った。
「しっかりしなさい!」
それ以降、湖は富士山が転げ回りそうになると、落ち着いているときの姿を映した。しかし、その様子を見ていたのは富士山に限った話ではない。そう。近隣の民が富士山と富士山を映す湖を見て、腰を抜かして拝み始めたのだ。
「富士山がふたつ! あなありがたや……!」
これが、誰も知らない逆さ富士の起源であった。
毎週ショートショートnote
裏お題「逆さ富士七転八倒」
文字数410字
気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)