【ショートショート】気持ちが負けている【心お弁当】
気持ちが負けている
あるとき、心お弁当なるものが流行した。「嬉しいチキン南蛮弁当」「おだやか野菜炒め弁当」と、不思議な名前の弁当が並ぶ。
かつて、店員はN氏にこんな説明をした。
「このお弁当を食べると、とてもよい気持ちになるんだよ」
だからN氏も心お弁当を楽しんでいる。今日は「ウキウキ生姜焼き弁当」だ。先ほど些細なミスで厳格な上司から激しい叱責を受けたが、気持ちが高ぶれば仕事にもいい影響が出るだろう。
ウキウキ生姜焼き弁当の力は凄まじかった。弁当を完食したN氏は、手始めに休憩中の上司のところへ向かった。
N氏はウキウキした。パワハラ解消のために、今なら何でもできる気がしたのだ。N氏は上司の死角を陣取り、頭目がけて思いっきり灰皿を振りかぶった。
しかし、現実は甘くなかった。N氏の視界がぐるっと回る。
「なんだ。いきなり殴りかかってきて」
N氏の不意打ちをいなし、組み伏せた上司の机の上には、食べかけの「サイキョー西京焼き弁当」が置いてあった。
毎週ショートショートnote
お題「心お弁当」
文字数407字
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気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)