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【短編小説】宛てられた手紙

 兄さんへ
 新年おめでと~! 約束通り手紙を(字がブレていて読めない)ます! 兄さんが「メリッサは約束を守らないから」とか(字がブレていて読めない)書きます!
 (字がブレていて読めない)早速賢者の剣探しをしてるよ! あたしは元気! こまっちゃんも元気だよ! (読めない)遺跡で仕掛けが動いちゃったらしくてマトモに入れなくて調査も(読めない)、ちょっと残念だった!
 それでね、兄さんの知り合(読めない)にすごく優しくしてもらえたんだ! (読めない)、知ってるよね? 兄さんが助けてくれたって言ってたよ!
 次の遺跡に向かう馬車の中でこれ書いてるんだけど、もうガタガタでたい(読めない) またそのうち気が向いたら顔(読めない)

メリッサからの手紙

 ノアは苦笑する。メリッサは元々作文が不得手だったが、手紙による近況報告もこの有様とは予想外だ。とはいえ変に整った文章を書かれてもそれはそれでメリッサらしさがなくなるので、このくらいの支離滅裂さがあるほうがいい。
 メリッサの手紙は新年のグリーティングカードに混ざって届いた。ノアは交友関係が広い方で、まめに手紙を書くタイプでもあったためこういった祝日には沢山のカードが届く。メリッサの手紙にもカードが同封されており、メリッサの文字とは似ても似つかない達筆で書かれていた。コマチの文字だろう。

ノア様
ラスター様
 新年のお慶びを申し上げます。
 昨年は大変お世話になりました。わたくしもメリッサも大変元気です。メリッサが、馬車の中でお手紙をしたためると言うものですから、やんわりと止めたのですが思い立ったら即行動のメリッサは酷く揺れる馬車の中で一生懸命にお手紙を書いていました。彼女の気持ちが上手く伝わればよいのですが、と心配していましたが、きっと大丈夫かと思います。
 アルシュの近くに立ち寄った際には、顔を見せに行きますね。その時には早めに便りを出しますので、よろしくお願いいたします。

コマチのグリーティングカード

 メリッサとは違って、きちんと止まっている・・・・・・ところで書いてくれたのだろう。非常に読みやすい。
 メリッサの手紙にあった「精霊族」当人からもカードが来ている。

ノアとラスターへ
 新年のカードってやつ、精霊族の間ではやらないんだけどねーちゃんが書け書けうるさいから書いてる。何かあれば直接言いに行ける距離なのにな。
 この前の仕事でノアの妹に会ったよ。お前と全然違った。制御の効かない装置みたいなやつだな。まぁ悪い奴じゃなかったけど。
 兄妹なのに全然似てないってことあるんだなー。

アカツキからのグリーティングカード

 ノアは苦笑した。きょうだいなのに全然似ていないという言葉をソックリ返してやりたい。その似ていない相手からもちゃんとカードが来ている。

ノアとラスターへ!
 あけましておめでとう! 今年もよろしくね。去年は本当にいろいろありがとう。あたしはなんだかんだで楽しくやってるし、アカツキもかなり元気になってきたみたい。
 新年最初の報告書提出、ギルドで待ってるわ。

シノからのグリーティングカード


 そして、ヒョウガとコガラシマルからのカードも届いていた。

ノアとラスターへ
 あけましておめでとうございます。ソリトスの新年の挨拶ってよくわからないんだけど、アマテラスだとこういう言葉を使っていた気がしています。
 オレとコガラシマルは今、学術都市クーウィムに居ます。賢者の塔とかがあるところです。ノアなら多分、知ってるよなぁと思います。魔力の扱いはノアのおかげで身についたのですが、今回、いい機会だから改めて勉強してみようと思って、本格的な入学ではないんだけれど、今勉強しています。
 ソリトスでは魔術の才能がないからという理由で子供を学校に通わせない親がいると聞いて驚きました。だからこういう大人向け(オレはまだ大人じゃないけれど)の学び直しの学校があるそうです。
 勉強が終わったら、ノアにまたオレの魔力操作を見て欲しいです。成長したところをいっぱい見せるから、そのときは褒めてくれたらうれしいです。
 あと、コガラシマルがラスターと新年の酒盛りをしたいと言っていたので、今度商業都市に寄るときはお酒を買っていきます。コガラシマルはオレと二人で旅をするときはお酒を一切飲まないので(ほんとだよ!)、大目に見てくれるとうれしいです。

ヒョウガとコガラシマルからのグリーティングカード

 ヒョウガとコガラシマルから、となっているが文面は完全にヒョウガによるものだろう。ヒョウガの書く文章はものすごく丁寧……ではなくて仰々しく、文章に慣れていない感じがひしひしと伝わる。だがその必死さがノアは好きだった。
 アングイスからのカードには写真が貼り付けられていた。

ノアとラスターへ
 去年は色々と世話になった。今年もよろしく頼む。
 この写真なんだが、地区の写真屋に頼まれて渋々撮ったやつだ。てろんてろんの生地ってあまり落ち着かない。宝石も……うーん、ワタシの趣味ではないな。ただ、写真屋のペットの蛇はかわいかったから協力してよかったとは思っているぞ。もし二人も写真を撮りたいならこの写真館に来てくれ。ワタシからの紹介と言えばちょっとまけてくれるんじゃないか?
 トィーフォ写真館 商業都市アルシュ58丁目7番地

アングイスからのグリーティングカード

 真っ赤なドレスに身を包み、白蛇を従わせているアングイスの写真だ。手には大きな宝石の指輪がはめられている。地区の荒くれ者どもに「並べ怪我人共!」「普段ナイフだのなんだので刺されてるくせに注射針にギャアギャア言うな!」と強気の立ち回りを見せるアングイスも、こうして着飾ると大変エレガントだ。今度感想を伝えようかな、と思ったノアは続いてシエナからのカードを手に取る。

ノアへ
 まさか命の恩人に会えるとは思っても居なかったよ! そしてこうやってカードを贈ることができるなんて想像もしてなかった。今年もよろしく!

シエナからのグリーティングカード

 シエナのサインが記載されているところにキスマークがついていたのでノアは少し仰け反った。そのタイミングで部屋にラスターが滑り込んできた。
「ノア! コバルトからカード届いたぞ」
 ラスターはそう言うと、ノアの手元に黒いカードを置いた。ギラギラと光る青いインクで鳥のシルエットが描かれている。
「ポストに残ってた?」
「まさか。ネロが届けに来たんだよ」
 ノアはカードを開いた。

 今年もよろしく。
 追伸:ラスターは至急俺のところに来るように

コバルトからのグリーティングカード

 ノアはラスターの顔を見た。
「……呼びつけ?」
 ラスターはにこっと笑って答えた。
「パシりってやつ」
 ノアは椅子から立ち上がった。
「俺も途中まで一緒に行くよ」
「都市に用事が?」
「うん。カードの在庫が切れそうだから買いに行きたかったんだ」
「そりゃあいいや」ラスターはノアの背をぽんぽんと叩いた。「ついでにギルドも見ておきたいよな」
「そうだね。シノから報告書の提出せがまれてるけど、それは後にするよ」
 ラスターが肩をすくめたが、ノアは無視して玄関に向かう。
 ……背後から「おいてくなよぉ」という情けない声がした。

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ぽんかん(仮)
気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)