【ショートショート】空箱に中身があった頃【立方体の思い出】
空箱に中身があった頃
僕たちは四角い箱の中へ大事なものを一つずつしまっていく。思い出の形はいっぱいあるけれど、箱はみんな立方体だった。僕たちは同じ箱を持っていたけれど、ひとつとして同じ中身の箱はなかった。それが個性なのだと、先生が教えてくれた。
僕たちは立方体の箱のシルエットを崩さないように思い出をつめていた。それはクラスの流行であってルールではなかった。だからそれに従わなかったTは悪ではなかったのだ。
彼の箱はパンパンに膨らんでいた。Yがそれを糾弾し、Tの箱の中身を捨て始めた。
箱からは、たくさんの思い出がキラキラとこぼれていく。いくつかは粉々に砕けてしまった。
抵抗したTの手が、Yの箱の側面を殴る。彼の一撃は中身を壊さなかった。が、箱はべっこりと凹んでしまった。
Yが甲高い悲鳴を上げた。
YはTの集めた、キラキラと美しい思い出の残骸の上で泣いている。取り巻きが彼を慰める。僕たちはそれを、呆然とも悲哀とも違う、夜闇の瞳でじっと見つめていた。
毎週ショートショートnote
お題「立方体の思い出」
文字数410字
気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)