【ショートショート】ほんと鈍感なんだから【ツノがある東館】
ほんと鈍感なんだから
まだ怒ってるんだろうな、と祖父が言った。それが最期の言葉だった。
S県の山奥に位置する旅館は西館と東館に分かれていたが、東館にだけ角があった。もともと先に建てられていたのは東館で、西館はあとで増築された。ある時当時の社長が西館から改修工事を始めた。祖父は東館からすべきだと何度も社長に訴えたが、社長はそれを無視した。
「じーちゃんが謝ってたよ」と僕は言った。窓から見える西館は閉鎖されている。利用者減少により閉鎖されたのだ。
「そんなの知ってるよ」東館が答えた。
「あなたのせいじゃないって何度言っても気づいてくれないんだもん」
東館はぷんすこ怒っていた。一方旅館は静かなものだ。いつ営業終了してもおかしくない人気だ。
「普通は家と会話なんてできないから」僕は東館をなだめた。「仏壇経由でじいちゃんに伝えておくよ、東館が気にするなって言ってたって」
東館は長い溜息をついた。よろしくね、と言った彼女の頭には、まだ角がある。
毎週ショートショートnote
お題:「ツノがある東館」で「一行目で惹きつける」
文字数408字
気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)