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【ショートショート】つまり附子【真夜中万華鏡】

   つまり附子

 真夜中万華鏡は大人気。真夜中のような完全な暗闇へ降りる光。それを眺めるだけのものではあるが、人々は完璧な美しさとそれが織りなす世界そのものに惹かれていたのだ。
 私もその一人だ。毎日夜になると真夜中万華鏡を覗いていた。素敵な世界だ。星々が無数に輝き、一面に月が増える。どこかの残業の光が混ざり、雨が微かな線を引く。
 ああ、美しい。ずっとこの世界を見ていたい。そう思ったとき、私はふと、この万華鏡に自分を落としたらどうなるのかなと思った。きっとこの完璧な世界の中で、私も美しくなれるのかな。
 ……自分の写真を用意する。そして、それを真夜中万華鏡で覗けばいい。そうっと、私は完璧な美しさの世界を見る。白い線がいくつも奔っている。星も月も夜もなく、その見慣れない線だけが延々と続いている。
 私は途方に暮れた。
 どうやら、中の鏡が割れたようだ。
 完璧な夜に似つかわしくない、不完全な美しさの私が混ざり込んでしまったせいで。


 毎週ショートショートnote
 お題「真夜中万華鏡」
 文字数407字

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ぽんかん(仮)
気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)