【MUSIC】ORIGINAL LOVEを勝手にレビューする vol.4 / ムーンストーン
レビューもあっという間に第4弾。今回は「ムーンストーン」です。
田島さんいわく「夜のお菓子」というこのアルバム。大人のポップス感あふれる大人のOriginal Love炸裂って感じなんです。一見まとまり良さそうですが、音楽的にはかなり攻めている感じもしますし、その歌詞の世界観もとても刺激的なワードもあり、かっこいいサウンドにまとまりよくしてますが、田島さんとしてはわりと実験的なところも多かったのではと思っています。
アダルトな感じっす、ムーンストーン
このアルバムを語る前に、毎度のことですが、この前後を整理してみましょう。Original Loveの作品は毎回作風が異なると言われるのですが、その前後でちゃんと必然性があり、ストーリーとしてつながるのではと思ってまして、そこがまたヨカとです。
この「ムーンストーン」は2002年3月にリリースされていますが、その前作は2年前の2000年8月にリリースされたアルバム「ビッグクランチ」。この「ビッグクランチ」がある意味において行き切っているというか、問題作な傑作なんです。
やりたい放題でちゃぶ台をひっくり返す田島氏
すでにご紹介している音楽のダイバーシティをポップスにまとめ上げた快作「Desire(1996年)」の翌年のアルバム「ELEVEN GRAFFITI 」を機材元年と田島氏は呼んでおり、コレまでのOriginal Loveが売りとしていた?オーガニックなサウンドではなくピコピコ音が登場します。
その流れから新たな時代の音を貪欲に吸収し、今まであまり見せてこなかっった多様な音楽性、そして元々田島氏が持つエキセントリックな音楽性が爆発して、弾け飛んだ進化を遂げた結果にゃロックンロールに眉毛をラメでキラキラにして踊り狂います(下記動画参照)。
ロックンロールで金髪チアダンサーを従えた秀樹ヘアーの田島氏
この「R&R」という曲が「ビッククランチ」の先行シングル曲であることを考えると、「接吻(1993年)」「夢を見る人(1995年)」「プライマル(1996年)」の頃がパブリクイメージの田島ニイサンがいかにぶっ飛んでるかがよく分かります。今回ご紹介の「ムーンストーン」というアルバムはこの後に出たアルバムなのです。その反動たるやwwww草生える。
上記の爆発した「ビッククランチ」が2000年夏。そして今回ご紹介の「ムーンストーン」が2002年の春です。その間に少し期間があるのですが、その間にやったライブが「“TRIAL SESSION”ツアー」です!
「ビッククランチ」である意味やりきった感が聞き手からしてもあった後に、どんなところに田島さんは行くのか、「宇宙独楽」という曲で宇宙に行って地球に返ってきて、チアダンサーと踊ってる田島さんの次の一手はドキドキしておりました。そしたらどっこい、また違う攻め方をしてきました。
トライアルと銘打って、自身でピアノをひき、ジャジーな熱いサキソフォンのブロウ、アレンジにターンテーブルのスクラッチを盛り込みながら、ミニマルかつ熱く、クールな音楽をやってきたのでした。
マービン・ゲイ「I Want You」をピアノを弾き語りのカッコイイ田島氏
いやー、かっちょいいっす。やべーっす。「ビッククランチ」のあとに田島氏のある意味連続確変です。
ちなみにこの“TRIAL SESSION”ツアーの前に、あの名曲名コラボ「めくれたオレンジ」が発売されています。個人的にはこの時、田島さんとてもスカパラの活動に刺激されたのではと、そういうことも相まって、とてもエネルギッシュに良い状態で新たなステージに突入したのかなと思ってます。
スカパラ歌ものシリーズの堂々第一発目は田島氏でした。
(最近のaikoとのコラボも好きっす)
ってことで、何が言いたかったかというと、進化してぶっ飛んで返ってきた田島氏の新たな一歩のアルバムがこの「ムーンストーン」であると。
ふぅ、そうです、ではようやく曲にお話にm(_ _)m
1. 夜行性
先行シングルカット曲。この曲、かの松本隆先生が歌詞を書いています。このアルバムは2曲ほど松本隆が歌詞を書いていて、それ以外はすべて田島貴男氏の作詞作曲編曲です。田島さんが歌詞を外出しすることはあまり多くなく、バンド編成時代は木原龍太郎ニイサンのシャレオツ歌詞がOriginal Loveの世界観の一端を担っておりましたが、お一人になってからはほとんどご自身で書いている。しかもここに来て松本隆という、いわば日本歌謡界の重鎮が、田島さんとクロスするというところに何かソワソワを感じるものがあります。
その詩は立体的なドラマであり、田島さんの曲の世界観とのフィット感も申し分ない、田島さんが歌っても負けない存在感、楽曲の良さではなく、歌詞の世界観を聴き込めるのはさすがと改めて思いました。相性いいんだなと、正直意外でした。
ちなみにコレまでのアルバムの構成ともまた違う、最初にシングルくるパターンなのね。
2. アダルトオンリー
「夜行性」と両A面扱いの先行シングルカット曲。コレまで洋楽で育ったDNA前回の田島さんが、日本人としてのDNAとして染み込んだ歌謡曲の要素が滲み出たオシャレ歌謡ポップス(と勝手に呼ぶ)。シングルカットのジャケットの石原裕次郎っぽさとかなんだろオシャレ昭和なやつで、椎名林檎的な「東京」を感じる曲。ジャジーで多少南米感ある洒落たアレンジでとてもナイス曲。アダルトオンリー♪って歌ってますが、アダルト以外も是非。
3. Glass
やべー、ファルセット来たよ、来ちゃったよ。名曲「It's a Wonderful World」で痺れるかっこよさを放ちまくった田島氏の大人のファルセット・ヴォイスが返ってきた。しかもまた、そのファルセットにハマる曲です。歌詞はもう儚い大人の愛のうた。どこかエロく、どこか脆い。そして咽び泣くギターとサックス、いいっす。
不意に思い出した 二度と会えないヒト
細かい雨の 夏の空
最後にロックグラスを傾ける音が入り曲が終わります。映画のワンシーンを切り取ったかのような一曲。こっちのほうがよっぽどアダルトオンリー。
4. 悪い種
ピアノを引くようになり、ピアノでも曲を作るようになったという田島さん。トライアルセッションでもピアノを効かせてくれてました。この曲はピアノが強く主張して、それをギターとスクラッチがもり立てるジャジーでかっこいい曲。歌詞がまたいいです、悪い種子。
芽を出せ悪い種 こぼれ落ちた種 ふるい種 弱い種
網で仕分けられ 退けられ無視され
ロンリーロンリー 腐らないで種
働け悪い種 無我夢中になって
休みなくて 眠たくて 薬飲んで身を粉にして
ブラック企業で働いている人のための曲のようです。拗ねてます。しんどいです、悪い種は。選ばれた種になりたいです。曲はかっこいいです。
5. 月に静かの海
ここに来てとーってもシンプルなラブソング。出だしから濃い曲が多い中において一息つかせてくれる静かな曲です。静かの海です、月の。
ちなみに田島さんの歌詞は「~のさ~♪」って昔から多いのですが、今回も「~のさ~♪」って語りかけてきます。
この曲は最近やっている弾き語りスタイルで聞くとまたすごくいいです。
6. 守護天使
この曲も松本隆先生。多分B面一曲目の感じかと。田島貴男らしい、オリジナルラブらしいとても秀逸なポップスです。そして歌詞がまた松本隆先生の立体的な情景の浮かぶ立体的なストーリーのような歌詞。
「ベルリン 天使の詩」とか「ゴースト」とかの感じ。
「相手には僕の存在は見えないし、君に触ることもできないけど僕は君のことをずっと見守っているよ」っていうストーカー的なラブソング。
切なく悲しいラブソング。非常に洒落た曲ですが、その歌詞もとても素敵なのですが、実際には狂気的なラブ、オリジナル・ラブですごくいいです。曲と歌詞のマッチング具合も素敵。
ちなみにこれ、アルバム発売前まで「東京天使」っていう仮タイトルだったので、最後まで歌詞悩んだのかな。
7. Xの絵画
田島さんの変な曲、田島節でいうと、このアルバムだとこれかと。もうね、ヘンテコリンでかっこいい。個人的にはすごく好きです。ミディアムテンポでグルーブ感あるアレンジの曲。XXXXXXXXXXX(エックス連呼)!エーックス。(ジャパンではない)
羽はやそうと背中やぶいて 時代が飛び立とうとしていて
この先どうなってゆくかとかきみも見極めなさいとか言われ
でもゆるくなって今夜は本性を見せてくだけて 生きるかなしみを祝おう
田島さん、なんかあったのか。「悪い種子」じゃないけど「エラくて 選ばれて 質のいい種」になんか言われたのか?
8. 哀しいノイズ
ピアノ弾き語りの渋い、し枯れたブルース。枯れた感じのブルース感。染みる。派手ではない、キャッチーでもなくオシャレでもないけど、しみじみ歌い上げる。映画のワンシーンぽさがここにもある。
いつからだろう、スーパーマンなかっこよく強い歌詞ではなく、弱く寂れたヒトの叙事詩的な歌を歌うようになった田島さん。この曲は、世界観がドラマのワンシーンではなく、この曲と歌う田島さん自身が枯れたピアノバーのシーンにそのままで出てきそうな雰囲気さ。田島ピアノマン貴男。
9. 冗談
このアルバムで、最も好きな曲の一つ。めちゃくちゃかっこいい。
イントロ前に、語り口調で、
薄明るい空 タクシーを拾う246で酔った客がつけたドライバーの顔のアザ
濡れたガラス拭って まがったビルを見る空に寂しい街のエンジンが燃えてる
と歌う田島さん。とてもリアルな悲しげな日常のワンシーンを切り取ってから、アップテンポなジャジーなシティポップチューンでもり立てる。
この曲は全体を通して、音だけではなく歌詞においても統一感あるテーマと世界観、ドラマがあり、それは映画「タクシードライバー」のような日常の秘めた狂気を、その悲しさや儚さ、人間の愛とかまぜこぜになった日常で行きていくことを、愛を込めて歌っている、と思ってます。
その際たる曲がコレだと思ってます。
ぼくを覆い尽くした悪い冗談や孤独と争う毎日
変わる時代きしむ街になお強く あなたを追いかけている ...
もういちど 善や悪や愛や妬みのぼくにチャンスをください
この辛い毎日の中で、それでも生きようと祈る。そして曲の最後に「冗談渦巻く街に紛れ込む」と、また「冗談のような現実(≒日常)」に消えていく主人公。
田島氏が「夜のお菓子」と言いましたが、ウィスキーのお供じゃないけど、飲めますよ、コレ聴きながら。
10. ムーンストーン
アルバムタイトル曲。
ここまで、すごく生きることの辛辣さとか、儚さとか、愛とか、何かそういったものを巻き込んで歌ってきたこのアルバムの最後に、とてもシンプルで小さな幸せがキラキラと光る希望の再出発の唄を優しく歌う。
救いです、救いの歌。
もっともっと置いていけるはずさ もっともっと軽くなるはずさ
ぼくらの次のスタートの荷物は軽いのさ
この部屋もこれでさよなら きっときっと忘れてしまうのさ
ぼくらのつぎのスタートの未来のカンバスは
なにもまだ描かれていない
このアルバム、ヒトの色んな色や多面的な部分、特に今回は「都会の夜」感あふれ、そこに渦巻く人間の感情やシーンを切り取って音楽の乗せています。最後、最後はシンプルに静かに、新しい希望へと導く、夜明けの歌を歌うというのが、まさにこの「夜行性」から始まって最後「ムーンストーン」を通して夜明けに迎えるドラマのようなアルバムだと思っています。
眠れぬ夜に、少しのお酒とこのアルバムで、夜明けを迎えるのも悪くない、そんな一枚です、おそまつ。
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