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『数学する身体』
友人の名はH。
最近、国立大学を卒業した麻酔科の医師。研修もあけ、とりあえずの専門を麻酔科にしたらしい。
私の十年来の友人だ。
Hが90にもなる祖母が入院しているということで見舞いに行った際、私の勧めた書籍を持っていると、それを見た祖母が「見せてみな」と、その本をパラパラと読み始め、ついには最後まで読んでしまったという。
本の名は、『数学する身体』。
第15回小林秀雄賞を受賞した作品だ。
最近、私が大ハマりしている森田真生さんの著作である。
彼は、文系で東大に入り、異色の数学家・岡潔(1901-1978)のエッセイを読み、インスパイアされ、数学科に転部する。現在は、岡潔同様、独立して(なんの組織にも属さず)数学を勉強している。 今は独立研究者と名乗っている。
そんな森田さんの著作『数学する身体』を読んだHの祖母は、当時の女性では珍しく、かつては物理学を専攻していたインテリだったという。
そのことをHは後々知るのだが…。
「いやー、これは面白いね。なんで、これを買おうと思ったの?」
とHは訊かれる。
「友だちに紹介されて」
と答えると、
「ちゃんと読みなさい」
とHの祖母は言った。
その目は、真剣だった。
Hは、初めて祖母を怖く感じた。
その後、残念なことに、Hの祖母は亡くなる。
あの本は、祖母が最期に読んだ本だったに違いない、とHは言う。
2017年3月2日
『数学する身体』/森田真生/新潮社/2015.10.19