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『いわずにおれない』
この詩はこういうふうに読んでほしいっちゅうことは、それをつくった私にも言えないんですよ。ただ、その詩がどういうふうに読まれたがっているかということはあります。
たとえば、「ぞうさん」でしたら、〈ぞうさん/ぞうさん/おはなが ながいのね〉と言われた子ゾウは、からかいや悪口と受け取るのが当然ではないかと思うんです。この世の中にあんな鼻の長い生きものはほかにいませんから。
顔の四角い人ばかりの中に一人だけ顔の丸い人がおったら、本来はなんでもない「丸い」っちゅう言葉が違う意味をもってしまう。われわれ情けない人間だったら、きっと「おまえはヘンだ」と言われたように感じるでしょう。
ところが、子ゾウはほめられたつもりで、うれしくてたまらないというふうに〈そうよ/かあさんも ながいのよ〉と答える。それは、自分が長い鼻を持ったゾウであることを、かねがね誇りに思っていたからなんです。小さい子にとって、お母さんは世界じゅう、いや地球上で一番。大好きなお母さんに似ている自分も素晴らしいんだと、ごく自然に感じている。つまり、あの詩は、「ゾウに生まれてうれしいゾウの歌」と思われたがっとるんですよ。
たまに思い出して、読み返して、毎度、やさしい気持ちになる。
何度も何度も読みたい、大好きな文章。
いわずにおれない/まど・みちお/集英社be文庫/2005.12.16.