それぞれのそれぞれ
『わたしさぁ』
いつの話なんだろう。
カフェのテーブルにおしゃれな料理
それなりの年齢の女2人が向かい合う。
その1人はわたしだ。
学生の頃にナンパされた、と相手は話している
内容を聞くにそんなの数打ちゃの数の声かけで
返事に困る。
この年齢の女たちは何かしら言い訳をして
握りしめたビーズみたいなキラキラを
ダイヤモンドやサファイアつけてるみたいに
見せびらかしながら
わたしはそんなつもりないの、と身を翻す。
彼との生活が始まり
愛情と言葉とハグに満ち足りて
こんなに会話が難しいんだと外で違和感があるのは彼とのコミュニケーションがすごく力を抜いて行われているせいだろう。
この手の話を聞くとむなしくなる。
『パーティーに来るのは50代、60代なのよ』
自分の年齢棚上げでわたしはとても言えない。
パートナーがほしいのか
結婚したいのか
論点が見れなくなる
自分に置き換えたとき
わたしはパートナーが欲しかったわけでも
再婚したかったわけでもない
デートする相手や
愛し合う人が欲しかったわけでもない
わたしは
守って欲しかった
もう戦わなくていいよと
抱きしめてもらいながら眠りたかった
甘えたかったんだ。
彼の腕の中で
洗いざらした綿のシャツに鼻をこすりつけて
額にはザラッと伸びたヒゲがあたる
今の暮らしには愛がある
『難しいよね〜』
素直に甘えられる人を探せばきっと難しくない。
でもそのためには手の中のビーズはすべて捨てたほうが身のためだ。
私達もう若くないんだから。