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だっこ

『こんにちは』
彼の事務所を訪ねるとき
わざとそう言っている。
他人っぽい距離で
外から彼をみる。

どう見えるかは大切。

いつも彼は優しい眼差しで私を見る。


わたしは事務所に車を止め運転席から降りた。
『こんにちは』
道具を片付けていた彼は振り返る。
『お疲れ様』とニコッと笑う。
わたしは黙ってまじまじと彼を見る。
なで肩が柔らかい雰囲気を醸し出している。
くせっ毛が緩くウェーブしたセンター分けにメガネ。優しいタレ目。
きっと若い時から変わらないんだろう。

『なんですか?』いつも彼はこう聞き返す。

なんでもないの。見ていたいの。
好きな貴方を観察したい。
ただ夕陽を見るように、ただ星を見上げるように

ただそれだけだからわたしは『ふふ』とか笑って大概ごまかす。

なんですか?と聞くとき大概答えないよね、あなた。なんて言われるけど

なんて表現したらいいのかな、この気持ち。

『なぁに?』彼はもう一度聞いた。
『へ?』とわたしはとぼける
『だっこしてほしいの?』

うん!て飛びつくほど若くはないけど
言われて気持ちは飛びついた。

『こどもじゃないんだから!』といいながら
うれしくてぎゅっとする。

だっこって特別じゃない。
親しかしてくれない大切な愛情表現を
簡単に与えてくれる貴方に驚く。

そしてこうやって家族になるんだと思う

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