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氷河期総理はロスジェネたちの夢となるか?

ついにこの時が来た。そう、社会から虐げられてきた氷河期世代が国政の主役となる時が来たのである。

世間の衝撃を与えた岸田総理の次期総裁選不出馬の意向を受けて、自民党では様々な候補者たちが次期総理になるべく総裁選参戦を表明した。

そんななかで、ひときわ注目を集める男がいる。それが小泉進次郎だ。小泉進次郎議員はあの小泉純一郎の息子である。平成を生きてきた氷河期世代の筆者は、あの時の小泉旋風を鮮明に覚えている

『自民党を変える。日本を変える』
『聖域なき構造改革』
『改革なくして成長なし』

バブル崩壊から始まった終わりの見えない就職氷河期、デフレ社会のなかで閉塞感のなか過去の遺産と未来を食いつぶしながら怠惰な衰退を諦念をもって受け入れていた平成時代の国民たちは、現状を変えてくれそうなカリスマである小泉純一郎に熱狂した。

今でこそ小泉純一郎の実績には様々な疑問符が投げかけられているが、そんな小泉純一郎総理の政策を熱烈に支持したのも我々国民自身であった。左派や野党のバッシングも小泉人気に傷一つつけることはできなかった。

そんな偉大な父を持つ進次郎議員は、すでに十数年にわたって自民党の議員として活動し、環境大臣なども経験するなど順風満帆な政治家人生を送ってきた。まさにサラブレッドだ。国民からの人気も上々であり、将来の総理候補として常に名前が挙げられてきた。

しかし、その人気や実力に対して、疑問符を投げかける意見もネットには多く見られた。それは進次郎議員から強い主義主張が見えにくいからだ。

さわやかなルックス、穏やかで流暢な演説、熱心で距離の近い選挙活動などは素晴らしいが、安倍元総理や岸田総理のような、政治家としての強い政治家信念や主義思想を、進次郎議員はあまり表で口にしない。

もちろんインタビューなどでは自身の政策について語りはするが、どれも所属政党の方針を当たり障りのない範囲で自分の言葉に変えた程度でお茶を濁すか、当たり障りのない多数の人間がうなづくような意見を言うことがほとんどだ。

福島で汚染水が海洋放出されるなかでサーフィンを行い、安全を国内外にアピールしたり、派手でカリスマ性のある広報活動に比べ、肝心かなめの政策面があまりに地味で中身が薄いのである。

そのため、インテリ層からは中身のないかっこだけの二世議員のレッテルを張られ、政治家としては優秀かもしれないが総理の器にはないとみなされてきたのである。

今回の自民党総裁選においても、本命は石破議員、それに高市議員や河野議員が続くといった予想で、まだ43歳と若い進次郎議員は本命とは思われていなかった。しかし、風向きを大きく変える事件が起きた。それが今SNSやテレビを賑わす"フリーランスの田中です"事件だ。

事件は小泉進次郎議員の総裁選立候補の正式発表が行われた会見だ。記者からの質疑応答の場面で、フリーランスの記者が『フリーランスの田中です』と名乗った直後に予想外の質問を投げかけたのだ。

『あなたが総理になれば"知的レベルの低さ"で恥をかくのではないかと、皆さん心配しております。それこそ日本の国力の低下になりませんでしょうか。それでもあなたはあえて、総理を目指されますか?』

本人を前に『お前頭悪そうだから総理が務まるか心配だわ笑』という失礼極まりない質問を行ったのである。あまりにまっすぐな愚弄に会場はなとも言えない空気になってしまった。議員によっては憤怒しかねない質問である。

しかし、進次郎議員はやや笑みを浮かべつつ、『私に足らないところが多くあるのは事実だと思います。しかしその足りないところを補ってくれるチーム、最高のチームを作ります。田中さんにこのようなご指摘を受けたことを肝に銘じて、これから"あいつ、マシになったな"と思っていただけるようにしたいと思います』と丁寧に応じたのである。

進次郎議員に一発かましてやろうと乗り込んできたフリーランスの田中さんであるが、結果としては進次郎議員にこれ以上ないアピールの場を与えるだけに終わってしまった。捨て台詞に『勉強してくださいよ!』とのセリフを添えたが、勉強したほうがいいのがどちらなのか一目瞭然である。総裁選のライバルたちは、突然吹いた新次郎議員への追い風を起こした記者に頭を抱えているはずである。

この事件を経て、世間での風向きは変わった。それまで血筋も申し分なくルックスやコミュニケーション能力も高いが、それゆえにどこか二代目議員としての頼りなさを進次郎議員に感じていた市井の人々が、『進次郎議員も立派に成長していたんだな、意外とやるじゃないか』と認識を改めたのだ。

偉大な父親の傘の下で議員になって活動してきた、親の七光りでやってきた二代目議員が、実力をつけてついに父親と同じ道を歩み出したのである。父親に並び、そして超えるという物語は人々の大好物の一つだ。もしこのまま勢いに乗った小泉進次郎議員が自民党総裁の座に就けば、その若さも相まって小泉純一郎総理のころのような大人気の総裁になる可能性が高い。

さらに進次郎議員にとって追い風になるのが、野党に吹く逆風だ。飛ぶ鳥を落とす勢いで国政で存在感を高めてきた維新は、長年後押ししてきた兵庫県知事のパワハラ問題の責任を問われて大失速している。さらに立憲民主党は共産党との連携を検討したことがきっかけで内紛が起こり、こちらも一枚岩には程遠い。誰か党代表になってもまとめることは難しいだろう。

もし小泉進次郎総理が誕生しすぐさま解散総選挙を行えば、郵政民営化を問う解散総選挙で自民党が296議席を獲得して圧勝した2005年の再現となる可能性が高い。あの『小泉劇場』が再現されるかもしれないのである。

さて、この予想通りに小泉進次郎総理が誕生し、小泉劇場第二幕によって自民党が選挙に圧勝し、進次郎総理の政策が実施されることになったとすれば、日本社会はどのような方向に向かうのであろうか?

小泉進次郎議員は現在43歳、氷河期世代の後半組である。若いころは団塊の世代の雇用を守るため就職氷河期に晒され、平成時代をデフレブラック労働の中で過ごし、そしてようやく訪れた令和に登場した氷河期世代の総理大臣は、果たしてロスジェネ世代を救ってくれる救世主となるのであろうか?

結論から言おう。おそらく進次郎議員にロスジェネ世代を救わないだろう。いや、正確には"救えない"のだ。

進次郎議員に限らず、どの候補者が総理の座についても氷河期世代が救われる可能性は限りなく低い。

なぜ氷河期世代は救われないのであろうか?その理由は……

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