生産性の低さは企業ではなく政府の責任
本日はこちらの記事。
日本企業の生産性の低さが、賃金や労働時間に悪影響を与えているという話は、多くの人にとって共通の話題となりつつある。だが、企業の生産性の低さが、長年にわたる日本経済低迷の根本原因であるとの認識は薄い。筆者は以前から、立派なマクロ経済政策を立案する前に、制度疲労を起こし生産性が低下している日本企業の経営を改革しなければ、一連のマクロ政策は機能しないという主張をたびたび行っているが、どういうわけか、こうした主張に対しては「幼稚な意見だ」「解決策になっていない」といった感情的な批判が多数寄せられる。
日本経済の低迷の責任は日本企業の生産性の低さにあり、マクロ経済政策では解決出来ず、ミクロ政策を積み重ねで解決出来るんだという記事なんですが、ちょっと同意しかねます。
企業はなぜ生産性向上のための投資をするのか?
企業が生産性向上のための投資を行う時がどんな時かといえば、「需要があって投資をすることで利益が見込める時」でしょう。生産性向上をするということは供給能力の引き上げになります。
経済は需要と供給のバランスで決まりますから需要が供給を上回っている(インフレギャップ)のであれば供給能力を引き上げる必要があります。
一方、需要が供給を下回っている(デフレギャップ)のであればわざわざ投資をして生産性向上させて供給能力を上げる必要がありません。供給能力を上げたところで需要は増えませんから。
こういった前提知識が必要だと思うのですがこの記事では一切触れられていません。経済成長率が低いということは需要が拡大していないともいえます。そんな状況下で企業が生産性向上のために投資を行うでしょうか?
企業が生産性の低さを放置したから20年間経済が低迷したのではなく、経済が低迷していたから企業が生産性の低さを放置していたと表現する方が正しいと思います。
小渕政権は財政出動が足りなかった
記事内ではマクロ経済政策を否定する根拠として小渕政権を例に出しています。
政府はバブル後の不況から脱却するため、超大型の公共事業をたびたび実施してきた。財源はほぼすべて国債で賄われ、特に小渕政権の成立以降に国債の発行額が急増。250兆円程度だった政務債務残高は20年弱で800兆円を越える水準まで増大した。
だが、政府がいくら大型の財政出動を行っても経済は一向に良くならなかった。一部からは、今回と同様、制度疲労などの問題が指摘されたが、「徹底的な財政出動を実施せよ!」といった勇ましい主張が多く、地道な施策の必要性は無視された。結果として残されたのは膨大な政府債務の山である。
現在のコロナ禍を考えればよく分かりますが、景気が悪くなれば政府が国債を発行して景気の下支えをするというのが当たり前に行われています。
日本でも第一次、第二次合わせて50兆円ほどの国債を発行することになっています。おそらくこの程度の新規国債発行額では景気を上向かせるどころか支えることすら厳しいと思います。
そのため財政出動による景気の下支え効果が薄いように感じるかもしれませんが、それは財政出動の額が少なかったという結論になるはずなのです。
小渕政権の時も同じでバブル崩壊による景気の落ち込みから回復させるにはまだまだ財政出動が足りなかったのです。それだけバブル崩壊によって失われたGDPは大きかったということです。政府支出が増えればGDPは必然的に増えるという点から考えても筆者の主張は間違っていると思います。
さらに財政出動以外にもマクロ経済政策を否定しています。
安倍政権は金融政策、小泉政権は規制緩和、小渕政権は財政出動と、それぞれ教科書的な経済政策を繰り出したが、どの政策も十分な効果を発揮しなかったという事実は重い。やはり、日本経済にはマクロ経済政策以前の問題が存在していると判断すべきであり、ここにメスを入れない限り、日本経済の復活はないと考えるのが自然だ。
安倍政権の金融政策が上手くいかなかったのは借り手の需要がなかったから。
小泉政権の規制緩和はデフレ圧力のかかる政策ですから経済成長率が低くなって当然です。
小渕政権の財政出動は先ほど述べた通り財政出動の額が足りなかった。
マクロ経済政策の効果がなくなってきているのではなく、それぞれに理由がきちんとあります。
まとめ
おそらくこの方は「日本経済低迷の原因を企業に求める」という結論ありきで文章をかいているのではないでしょうか。再三出てくる「制度疲労」という言葉の具体的な説明もありません。政府債務を問題にしている点から見ても財政破綻論を信じているのでしょう。そのため政府はこれ以上支出を増やせない、ならば企業に責任を求めよう、という考えになっているのではないでしょうか。
正しいマクロ経済政策に基づいて日本経済が復活することを祈ります。
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