海遊館(完)マルチスピーシーズ
視点転展を観覧してから人気のない、細長い通路にでる。
壁には、つらつらと連なる掲示物があった。
何でも読むマンはなんでも読む。海遊館でもそう。説明書きだろうが何だろうが片っ端から読んできた。
ただ、ひと目でなにかを感じた。
読まなくちゃ。
真摯に読まなくちゃ。
なんとなく、そう思った。
腰を据えてじっくりと読み始める。
私の前を行く人。その足音はどんどん遠のき、消えてゆく。後ろから来る足音もやがて私の後ろを抜けて、遠くに消えていった。
立ち止まる者の少ない、細長い通路。
じっくりと読む。
海遊館に足を踏み入れてからずっと感じていた、スタッフたちの青く仄めく静かな情熱と、生き物に対する深い愛情、それらが一気に私の体を海流のように渦を巻いて包んでいく。そんな気持ちになる。
なおも読み続ける。
読みながらこみ上げる温かい何かに素直に身を委ねる。
胸が熱くなる。
視点転展を通じて感じていた想いが、より確信的になり、深みを増し、
私は、海遊館を噛みしめる。そして心から思う。
海遊館には、愛を持って運営している人たちがいる。
何度も読む。ゆっくり読む。
プロジェクトに携わった方々を想い、海遊館を想い、そして世界を想う。
細い通路に独り、海遊館。
写真を撮った。
今日のどの写真よりも深く、シャッターをきる。
この細い通路には、海遊館があふれていた。
海遊館を後にする時、私は半日滞在した赤青二色の巨大な建物を改めて見つめた。
〝個で完結する存在は、地球上にはいないでしょう〟
『水族館』そのなんとなく軽く感じる印象とは全く違う『海遊館』というものに出会ったのだと記憶に刻みながら。
ありがとう、海遊館。
またくるね。
〈了〉