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石山寺へ行く(10)恋するもののあはれ




大河ドラマ館を出るとすぐ隣でやっていたのが、『源氏物語 恋するもののあはれ展』






どんな展示があるのかな。




イラストレーター日菜乃さんによる、源氏物語に出てくる和歌を現代の恋愛に落としこんだイラストが展示されていた。






嘆きわび 空に乱るる わが魂を 
     結びとどめよ 下がひのつま  


 詠み人 六条御息所(葵の上に取り憑いて)

難産で苦しんでいる葵の上(六条御息所の車をボコした人)がお産の最中に突然詠んだ歌。

ただ、その声色も気配も、六条御息所とそっくりだったという……

この歌、解説によれば、六条御息所の生霊が葵の上に取り憑いて

〝光源氏が魂結び(衣の裾を結ぶと魂がとどまる)をしてくれれば魂だけでもそばにいれるのに〟

と詠んだ切ない恋の歌なのだそう。


現代風に置き換えるとどうなるのだろう。
エッセンスを抽出するとしたら、他の誰かと付き合っていても〝あなたの心の中に私がいてくれれば〟〝そのサインを見せてくれれば〟まだ救われるのに。
でもあなたの中には私はいない。

みたいな感じなのかな。


今も昔も恋ごころは直情的で胸が高鳴る。
「わが魂を結び留めよ」か…心の叫びだなぁ。なんか愛おしく感じてきた。


そして、イラストの男はどうやら魂結びをしていないご様子。
このスマホを眺めてる男、もし私がこの娘の父親だったなら、後ろに浮かぶ外輪船ミシガン号から、ガトリング砲でスマホごとコッパです。素粒子一つも残しません。

この夏のイラスト、とっても冷えた感じがするのはなぜだろう。こんなに冷えた夏の青空は見たことありません。彼女の顔にかげる麦わらの影、そして百合の花をいまにも裁ち切りそうなカットが不穏です。関係を断ち切るのか、それとも…

この女性も、六条御息所先輩のように生霊をぶっ放しそうな予感が。

このイラストが空寒い感じがするのはひょっとしたらこの冷めた男と、彼女の狂気が醸し出す、崖っぷち感のせいかもしれません。夏の太陽をもってしてもこの寒々しさ、この凍てつく波動の影響でしょうか私の腰がちょっぴり痛みます。






喫茶店でコーヒーをがぶ飲みしていると、窓の外にかつて想っていた人が。既婚の身ゆえ、あらわにできない恋心。そういうイラストらしい。


イラストを眺めながら好き勝手に妄想を膨らませる。



「……えっえっ!チョメ男くん!?
やだ、ちょっと…なんでこんな時に限って…」


このタイミングで威勢よく
「トリプル豚丼、ブタコメマシマシおまち!!」


テーブル揺らしてダイナミック着丼!!


この日のためにポッケにはパンシロンが一包。すべてはうまくいくはずだった。それが食い気と色気の究極の二択を迫られるとは!

泣きながら選択したのは食い気でした。


ごめんなさいねチョメ男くん…私…もう胃袋が……キュウキュウたまんないから…ゴクリッ!!



涙も箸もとまらない。






上の作品と対になっている。
この男性はどうやらこの女性を昔も今も想っているらしい。そして女性が自分には興味がないと思い込んでいるという。

あれっ、チョメ子さん…えっ!?なにあのカチ盛りどんぶり……泣いて喜んでるじゃん!!

君のそういうとこ、ほんとたまんないな…嗚呼、あのどんぶりになってわたしもワシワシと食べられたい……。

あのどんぶりが羨ましい。
男は雨に降られながら街に消えてゆく。


雨の商店街に彼女の威勢の良い声が響く。
「すいません、爆盛りおかわり!!」






おっ、末摘花の和歌ではないですか。

かつては唐衣と袂のセットが和歌の定石だったという。末摘花がこの和歌を詠んだ頃にはその定石はもう古いものとされていたらしい。



イラストにはかるたの聖地、近江神宮。赤い鼻の末摘花になぞらえた赤い花が画面いっぱいに散りばめられている。

末摘花の話をトレースしているのであれば、想い人は一夜からだを重ねた相手なのでしょうか。そして、男が弱ってる時にはそっと寄り添うのでしょうか。

SNSを開いては、想い人の幸せによって抉られる心。



舟とむる 遠方人の 無くはこそ
      明日帰り来む 夫と待ちみめ
                詠み人 紫の上

源氏物語  


明石の上の所へ行くのに、たっぷりと香を焚き沁めた直衣を、ウッキウキで着込む光源氏。


それを横目に見ながら一首詠む紫の上。

「向こうで引き留める人がいないのなら、明日には帰ってくるんだろうから、そう思って待っててやんよ。まぁ、か え っ て こ な い んでしょうけど」


源氏は返歌を詠む。

行きて見て 明日もさねこん なかなかに
                  遠方人をちかたびとは 心おくとも

                詠み人 光源氏

源氏物語

「あはは…何言ってるんすか…チャッと行って、チャッと帰ってきます!!えぇ、明石の上がブチ切れてもノールックバイバイで帰ってきますよ!いやマジで!!」



この和歌を踏まえてイラストを見る。
この女の人には遠距離中の恋人がいるのかな。その人には別の女性がチラついて…アイツちっとも帰ってこねぇじゃん!桜の花びらが散るように私の恋も散ってしまいそう。

〝こんなに孤独で、なにが春だよ〟

そんな感じでしょうか。


改めて、イラストをみると、どの作品も色彩のバランスが絶妙。


イラストのコーナーを抜けて、部屋の一角に六種の薫物の展示をながめる。



六種の薫物むくさのたきものなぜか黒方こくほうだけ聞いたことがあります。こんなのどういう経緯で私の脳に…なんでだろ。



ん、『かおりえらび』だと…

さっそくやってみる。

……くんかくんか…
……これはまた…いいかほり…こ れ は ダレノダ…あはぁ!!これは空蝉たんのかほり!

さて、お次はだぁれのかほりかなぁ…

ハァハァ…クンクン……スゥ、クンクン……
いいかほりぃ…ブヒィ!?こ れ は 明石の上たん!!


ハァハア…さぁ…次はダレノダ… だ れ の か ほ り か なぁ……



「ちょっといいかな」






様々な色目(衣服などの色合い)。色の重ね方で四季折々の装いができます。


『恋するもののあわれ展』入口の前にある美しい季節の切り花のオブジェ。

2024.05.09 私は石山寺。

いい影出てます。影には定評のある私。影にも個性が漏れている。「指写すまじ!」指の立てかたに〝らしさ〟が出てます。

でもいつも写り込むあなたの指は、

挙 げ て な い 指 なんですよ。






お土産屋さんで一回五百円のガチャガチャをする。

なにがでるのかなぁ

じゃじゃーん!!!!!




2回やったよ。





一つはトートバッグ、もう一つは缶バッジ。



このトートバッグ、本を入れるのに最高!!特に単行本。



※5月の写真です。
まさか年跨いで1月に公開することになるとは…




東大門をくぐって石山寺から門前町へ




※5月の写真です。



左手のお店で揚げみたらしを、右手のお店で焙じ茶を購入する。手前に写っている腰掛けにチョコンと腰掛けていただく。


揚げみたらし



門前の青空を見上げながら、サックサクのあげみたらしの串をひく。焙じ茶を啜る。

休日みたいな平日。

まぁ、休日か。




よくみると、松の木が軒をぶち抜いています。






揚げみたらしを平らげると満足気に腰をあげて、駐車場へと向かう。


さようなら石山寺。


つづく。


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