天皇陛下行幸〜両陛下あやかしに遭う〜
十数年前、私の住む片田舎に衝撃が走る。
両陛下が来る!
しかもちょー近所じゃん!!
諜報活動によりルートは事前に把握済み。
美智子推しの母に教えると、小躍りしながら大喜び。これは行くべし!行くべしっっ!!ウゥリィイイイイイイイ!!!!!
母親と乳飲み児だった長男を連れて、ビューポイントで旗を振り振り。
今か今かと旗を振り振り。
目の前を通り過ぎる漆黒の御料車。
陛下と我が賤民三世代が交差するその刹那、
南氷洋の氷は溶け崩れ、
パタゴニアのコンドルは上昇気流を掴み、天高く舞い上がり、
アラスカのイヌイットは犬ゾリを停めて不吉な予感に天を仰ぐ。
雅と賤、手振りと旗振り、血沸き肉踊るcall and response。
母親は「嗚呼美智子様…嗚呼美智子様尊い、こんな日が来ようとは…こんな日が来ようとは…幸せ…」と涙を流して感動している。
ルートは把握、親孝行発動!!!!!
私は号令をかける。
「次のビューポイント行くよっ!」
恥ずかしいほどキビキビと動く三世代。車に飛び乗り最短ルートで第2ビューポイントへ。
そして再び、沿道に母、私、乳飲み子。
陛下 「⁉…えっえっ!…あれっ…さっきも……」
皇后 「陛下…一体どうしたんで……ヒィッ、デジャビュウ!!!!」
ハツラツと旗を振りじゃくる三世代。デジャヴュの恐怖を噛み殺してレスを下賜する両陛下。
改めて感涙する母親。
親孝行の為に私の口から出た言葉は、
「次のビューポイント行くよ!」
沿道には延々と人々が蔓のように伝い、
ひと目玉体をご尊顔をと首を伸ばしている。
陛下 「さっきのは一体何だったんでしょう…きっと疲れて見まちが…」
そして三度、沿道に母、私、乳飲み子現る。
両陛下「…ヒィィッ!!デジャビュウ‼︎‼︎」
ニコニコ笑いながら旗を振る三世代と再度の怪に恐れ慄く両陛下の戦慄のコール・アンド・レスポンス!!
遠くの森で鳥が、ケェーッと鳴いた。
無自覚に玉体に呪いをかけ満足気に家路につく三世代
御料車は憑き物を憑けて走り去る。
平成の御代の出来事で御座いました。