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選手起用から視る静かなる闘将の哲学
さて、魂の息吹くフットボールに魅せられると、自分の魂も震えて何かしたくなるのが、もはや日常となってきた、どうもポンコツです。
北九州戦は試合後コメントで村主監督が『我慢比べ』と言っていたように、手に汗握る展開ではありましたが、終盤のPKで辛くも勝利を収めることになりました。
もちろん、選手たちの日頃の積み重ね、そして試合での魂を込めたプレーがその得点に繋がったのは言うまでもないところではありますが、
個人的にこの試合では村主監督の『選手交代の妙』が特に際立って感じたので、この部分について個人的な見解にて考察してみようと思います。
3つの選手交代の特徴
さて、第24節北九州戦を終えた段階ではありますが、
これまでの試合における村主監督の選手交代の特徴をまとめてみます。
ポイントはこの3点です。
①基本的には交代枠をすべて使わない
②走行距離などの具体的なデータや選手のフィジカルコンディションに基づいた柔軟な対応&選手起用
③その選手の長所が『一番活きる』時間帯を狙った選手起用
これを順に掘り下げてみましょう。
①基本的には交代枠をすべて使わない
コロナ禍を経て、2022年6月13日にカタールのドーハで開かれた国際サッカー協議会において、1試合における交代人数5人制の恒久化が決まりました
最近ではもう5人の交代枠をフルに使い、1試合の中で様々なスタイルを使い分けながら闘うチームが少なくありません。
こうした中で村主監督は基本的に交代枠をすべては使いません。
ここまでの24試合の内訳は以下のとおりです。
5人交代 2試合(第14節松本戦 第17節沼津戦)
4人交代 14試合
3人交代 4試合(第4節富山戦 第6節今治戦 第9節藤枝戦 第13節北九州戦)
2人交代 3試合(開幕からの3試合)
※第5節長野戦は中島俊一コーチ指揮のため含めていません
交代枠をフルに使ったのはわずか2試合のみ。
基本的には怪我やコンディションの問題、明確な運動量の落ち込みやプレーの問題などが無い限り、その時その場面でピッチに立っている選手を信じ、
繰り返しチャレンジしていく姿勢を促していることが見えます。
もちろんこれには、クラブの心臓である『フィジカルの強さ』が大きく寄与し、それに基づいたフットボールスタイルがこうした交代枠使用の少なさに表れているのはもちろんではありますが、
同時に『堅実な予防線』を張っていることも垣間見えます。
フットボールには不測の事態がつきものです。
どの時間帯、どの場面で予定外の状況が生まれても不思議ではありません。
例えば試合終盤、
『選手が怪我をしてプレー続行が不可能になる』
『強く痛んでいて、1人少ない状態でのプレー時間を余儀なくされる』
という状況はよく見られ、相手の得点機会が増える事にも繋がります。
村主監督はこうした状況にも備えて交代枠を残しておき、
そのような場合には、積極的かつ素早い選手交代を行い、相手が有利になってしまうリスキーな時間帯を少しでも無くそうとすると同時に、
怪我した選手・痛んだ選手が無理に長くプレーすることを避けようとしているようにも見えます。
この点は、自身がプレーヤーであったことももちろんですが、
村主監督の『選手ファースト』な哲学、そして人柄がにじみ出ている部分かなぁ、と個人的には感じています。
②走行距離などの具体的なデータや選手のフィジカルコンディションに基づいた柔軟な対応&選手起用
第23節 長野戦のBEHIND THE SCENESのハーフタイムのロッカールームのシーンにこのような場面がありました。
村主監督「みんな思ってるより走行距離まったく走ってない―――」
現代フットボールにおいては、走行距離などのデータを取ることは既にマストになりつつありますが、必ずしも監督がそれを試合中に利用するとは限りません。まだまだ自分の主観・感覚に基づいて選手への声掛け・試合中の判断を下す指揮官はいると思います。
もちろんそれが全て悪い事だとは思いませんが、より『客観的なデータに基づいて判断している』ということは、選手たちの安心感や信頼感、さらには後半に向けての課題分析にも繋がる部分かなぁ、と個人的には考えます。
そうした中で、村主監督はハーフタイムに上記のような言葉かけを選手たちにしています。
計測された走行距離の客観的なデータを踏まえて、それを選手たちにフィードバックし、後半に向けての改善を促す。
もちろんいわきFCのフットボールスタイルにおいて、走行距離のデータが非常に重要な数値であることは言うまでもありませんが、それをタイムリーにフィードバックするかどうかは監督の判断です。
こうした部分も、選手たちに『客観的なデータに基づいて監督は判断している』との安心感と納得感を持たせて、あくまで試合中のプレーに集中できるような雰囲気、メンタルコンディションをしっかりと整えているんだなぁ、と私は感じています。
また、代えのきかない選手だからといって、無理な選手起用はしていないようにも見受けられます。
もちろん連戦の中で痛みを伴う箇所や違和感のある部位は選手個々にあるものと思いますが、おそらくそこは身体面の数値情報やメディカルスタッフとの情報共有を通して『試合に出てもよい状態なのかどうか』という部分を重視し、そうでない場合は無理に起用しない。
第14節 松本戦で家泉選手をベンチに置き、加入後間もない遠藤選手をスタメンで起用したことがありました。
結果的に家泉選手は57分から交代投入されることになりますが、個人的な推察としては、できれば休ませたいフィジカルコンディションだったのではないかなぁ、と考えています。
もちろん勝利を目指す以上は、より効果的かつ能力の高い選手を起用できるように準備をしている部分はあるにせよ、可能な範囲で『小さな怪我のうちに大きな怪我にならないようにする』という方針が見え隠れしているようにも感じます。
このような部分も、村主監督自身がプレーヤーとして、また指導者として、
数多のチームで培ってきた経験を基に表現している『村主スタイル』であり、またそれは即ち同じくプレーヤーであった大倉社長や田村雄三SDなども含めてクラブ全体で構築している『いわきスタイル』なのであろうと思います。
③その選手の長所が『一番活きる』時間帯を狙った選手交代
これは、前半戦の終わり頃から特に顕著に見えてきた傾向だと私は感じています。
村主監督の選手起用の方法は非常に明確です。
『その選手の長所が一番活きると思われる』時間帯・場面を狙って投入しているように感じます。
特に私が強くこの印象を感じるのは、
鈴木翔大・古川大悟・岩渕弘人のスタメン
谷村海那・江川慶城・吉澤柊の後半起用
です。
村主監督は毎試合ではありませんが、
ハーフタイムで選手を交代することが少なくありません。
でも、それは決して動きが悪いとか気持ちが整っていないとか、そうしたネガティブな理由ではないとも感じています。
おそらくここは『今日のゲーム展開・この後の時間帯はこの選手の長所の方が活きる』という視点に基づいた交代ではないかと個人的には考えています。
選手の特徴がより効果的に働くように、客観的なデータや試合の流れ・タイミングを見計らいつつ、可能な範囲で
・選手に余計な疲労を蓄積させない
・選手の個性を活かす
・流れが悪くないのであれば、無理にそれを変えない
という選手に寄り添った目線を重視しながら、
長いシーズンを見据えつつ、試合に応じた選手起用をしていると私は感じています。
さすがに開幕当初は選手個々の特徴を
試合に絡めて判断・分析し把握できていない部分もあり、
様子見なところもあったのかなぁ、とも思いますが、
前半戦の最後の頃からは、
明らかに選手起用の流れが固まってきた感じが見受けられます。
特に
古川大悟のランニングと積極性
鈴木翔大の強さと爆発力
岩渕弘人の上手さと攻撃力
をスタートから活かして相手を消耗させつつ得点を狙い、
谷村海那の突進力とクイックネス
江川慶城の試合の流れを変えるムードメイク
吉澤柊のスピード
を相手の運動量が落ちる後半から投入して、
得点・追加点を取りに行きつつ、失点しない攻撃力を保つ
という形がより多く、それが結果にも繋がっているので
非常にいわきFCのスタイルに沿った上手い選手起用をしてるなぁと感じています。
また、そうした選手起用やトレーニングを通して、有田稜選手の成長に合わせ役割が変わってきたところも面白いところです。
シーズン序盤は後半からの投入が多く、高さや強さをセットプレーやポストプレーで活かそうとしているように見受けられましたが、
走力とボールキープ力がグンと上がってきた前半戦最後の頃からは、スタメンで起用されることが増え、それまでの攻撃的な長所に加えて『相手の運動量を削り取るプレッシング・ランニング』の能力も伸びたことで、前半から積極的に起用したい、と監督に思わせたところに大きな成長を感じます。
こうした選手の能力の変化も把握し、柔軟に起用法を変えられるところが、『選手の長所を活かす起用』を裏付けている部分でもあるのかなぁ、と考えます。
選手を活かす・人ありきの哲学
まとめになりますが、村主監督自身は選手時代・指導者になってからも含めて、たくさんの苦しい状況の中で闘ってきた人です。
その穏やかな外見・振舞いからは想像も出来ないほど、
選手時代はチームの降格や存続危機などを経験し、指導者になってからもなかなか勝ちきれない状況や降格なども味わっています。
また、町田でコーチをしていた時には昇格も経験しています。
酸いも甘いも味わってきた中で、村主監督が辿り着いた哲学はおいおい本人が結果と共に示してくれるのを待つとして、
第三者としてそこに見えるのは
『人を大事にする』
『ひたむきに一戦一戦の勝利を目指す』
『クラブ・選手自身・シーズンを通した未来に向けての全体像も見据える』
という姿だなぁ、と感じます。
どれも当たり前のようでいて、勝負の世界では難しいことばかりです。
うまくいかなくなって、チーム状況が悪くなったり、降格の憂き目にあったりすることも少なくありません。
たぶん色んな経験から村主監督自身が学び、静かにひたむきに闘ってきた中で創り上げてきた、そしてこれからも創り上げていく指導者&フットボール人としての魂がそこにこもっているのかなぁ、って私は考えています。
昨日の北九州戦
村主監督は前半・ハーフタイムでの交代枠使用を除く、後半の交代枠使用として、今シーズン最も遅い84分までそのカードを切りませんでした。
シーズンも佳境に突入し、夏場の試合を越えた段階で、
普通なら早めに交代枠を使用して、スタメン選手の体力を温存しつつ、追加点を狙って押し込みたくなるところ。
しかし、それを我慢して、交代をギリギリまで引っ張った結果、交代投入した吉澤柊が、わずか3分後にPKへと繋がるインテンシティ高いプレーを見せました。
これはもう、
選手たちへの信頼
流れを読む経験
交代選手が最も活きる場面を見計らう
といった視点が頭に無ければできないであろう絶妙なタイミングであったことは、勝利という結果が証明していると思います。
あらためてこの静かなる闘将の穏やかな凄みを感じたと共に、
縁あってその姿を間近で見れることの喜びを、感じずにはいられません。
(参考資料)2022 いわきFC 交代選手記録(24節終了時点)
第1節 VS 鹿児島 ハーフタイム 古川大悟→吉澤柊
(1-1 △) 55分 岩渕弘人→谷村海那
第2節 VS 相模原 62分 古川大悟→吉澤柊
(1-0 ○) 83分 岩渕弘人→谷村海那
第3節 VS 愛媛 66分 古川大悟→吉澤柊
(2-1 ○) 岩渕弘人→伊藤稜馬
第4節 VS 富山 79分 古川大悟→吉澤柊
(1-1 △) 82分 岩渕弘人→伊藤稜馬
90分 有馬幸太郎→有田稜
第6節 VS 今治 ハーフタイム 岩渕弘人→有田稜
(0-1 ●) 64分 古川大悟→関野元弥
81分 宮本英治→永井颯太
第7節 VS 八戸 ハーフタイム 古川大悟→谷村海那
(3-1 ○) 69分 岩渕弘人→有馬幸太郎
78分 永井颯太→伊藤稜馬
90分 鈴木翔大→有田稜
第8節 VS 福島 58分 谷村海那→伊藤稜馬
(1-0 ○) 岩渕弘人→有田稜
69分 有馬幸太郎→永井颯太
吉澤柊→鈴木翔大
第9節 VS 藤枝 68分 古川大悟→有田稜
(2-2 △) 74分 岩渕弘人→伊藤稜馬
80分 有馬幸太郎→吉澤柊
第10節 VS 鳥取 56分 古川 大悟→永井 颯太
(2-0 ○) 68分 有馬 幸太郎→谷村 海那
岩渕 弘人→伊藤 稜馬
84分 鈴木 翔大→吉澤 柊
第11節 VS YS横浜 57分 永井 颯太→伊藤 稜馬
(6-0 ○) 77分 鈴木 翔大→有田 稜
有馬 幸太郎→谷村 海那
岩渕 弘人→山口 大輝
第12節 VS 讃岐 ハーフタイム 鈴木 翔大→谷村 海那
(2-1 ○) 古川 大悟→有田 稜
73分 岩渕 弘人→山口 大輝
75分 家泉 怜依→江川 慶城
第13節 VS 北九州 64分 古川 大悟→山口 大輝
(2-2 △) 80分 岩渕 弘人→鈴木 翔大
90+3分 有田 稜→吉澤 柊
第14節 VS 松本 57分 遠藤 凌→家泉 怜依
(1-2 ●) 山口 大輝→永井 颯太
谷村 海那→有田 稜
77分 宮本 英治→関野 元弥
85分 鈴木 翔大→江川 慶城
第15節 VS 宮崎 ハーフタイム 古川 大悟→谷村 海那
(2-0 ○) 79分 岩渕 弘人→遠藤 凌
87分 山口 大輝→鈴木 翔大
90+3分 有馬 幸太郎→有田 稜
第16節 VS 岐阜 ハーフタイム 古川 大悟→谷村 海那
(2-1 ○) 75分 岩渕 弘人→江川 慶城
77分 有馬 幸太郎→鈴木 翔大
84分 山口 大輝→有田 稜
第17節 VS 沼津 ハーフタイム 古川 大悟→谷村 海那
(4-0 ○) 74分 岩渕 弘人→永井 颯太
85分 山口 大輝→鈴木 翔大
有馬 幸太郎→有田 稜
90+2分 日高 大→黒宮 渉
第19節 VS 富山 59分 岩渕 弘人→杉山 伶央
(1-1 △) 谷村 海那→鈴木 翔大
73分 有馬 幸太郎→吉澤 柊
86分 山口 大輝→有田 稜
第18節 VS 松本 24分 有馬 幸太郎→谷村 海那
(0-0 △) 72分 有田 稜→鈴木 翔大
岩渕 弘人→杉山 伶央
85分 山口 大輝→吉澤 柊
第20節 VS 八戸 ハーフタイム 鈴木 翔大→谷村 海那
(5-0 ○) 76分 山口 大輝→川谷 凪
82分 岩渕 弘人→杉山 伶央
86分 有田 稜→吉田 知樹
第21節 VS 福島 68分 岩渕 弘人→谷村 海那
(4-1 ○) 71分 有馬 幸太郎→江川 慶城
84分 鈴木 翔大→杉山 伶央
有田 稜→吉澤 柊
第22節 VS 藤枝 57分 鈴木 翔大→谷村 海那
(3-0 ○) 岩渕 弘人→山口 大輝
64分 有馬 幸太郎→江川 慶城
85分 有田 稜→吉澤 柊
第23節 VS 長野 ハーフタイム 鈴木 翔大→山口 大輝
(1-0 ○) 61分 有馬 幸太郎→谷村 海那
72分 岩渕 弘人→江川 慶城
90+2分 有田 稜→吉澤 柊
第24節 VS 北九州ハーフタイム 鈴木 翔大→谷村 海那
(1-0 ○) 84分 岩渕 弘人→江川 慶城
有田 稜→吉澤 柊
90+4分 家泉 怜依→米澤 哲哉
※第5節 長野戦は中島俊一コーチ指揮のため除外
※天皇杯はそもそもの大会レギュレーションや選手起用方針が違ってくると思うので含みませんでした。