やっぱり川原泉でしょ。
『りぼん』からはじまって『なかよし』『ちゃお』『花とゆめ』等など、小学生のころからたくさん少女漫画を読んできた。大学生になってやっと少年漫画も読むようになったけれど、心に残っている作品の多くはやはり少女漫画だ。
『りぼん』なら「有閑倶楽部」「ちびまるこちゃん」「ときめきトゥナイト」「銀曜日のおとぎばなし」「月の夜 星の朝」ほかたくさん。
『なかよし』なら「あこがれ冒険者」「七色マジック」「きんぎょ注意報!」「呪いの黒十字」
『ちゃお』はもう何といっても「アルペンローゼ」一択。
『花とゆめ』のころには新たな趣味嗜好を得つつ、「ガラスの仮面」「赤ちゃんと僕」「ここはグリーンウッド」「緑野原学園シリーズ」「僕の地球を守って」「動物のお医者さん」などこれまたたくさん。
これ以外にも「日出所の天子」「王家の紋章」「天上の虹」「バナナフィッシュ」「ポーの一族」「THE B.B.B」「花咲ける青少年」などなど、読み散らかしてきたと言っても過言ではない。
雑誌も読んでいたが、基本的には単行本派だったので、一時は何百冊という漫画を本棚やら押し入れやらにぱんぱんに詰め込んでいた。
今はどうかというと、かつて熱狂して読んだ漫画たちはとうに古本屋に売り飛ばされ、ほんの一部だけが残っている。そのうちの一つが「バナナフィッシュ」であり、もう一つが川原泉の作品群だ。
「バナナフィッシュ」は主人公であるアッシュとヒロインである英二との関係性に悶えつつ、ニューヨークを舞台にストリートキッズやマフィア、国家権力、人種や薬や戦争の傷など多岐にわたる題材を扱っているという社会派な側面にも大いに惹かれていた。エンターテインメントとしての展開の仕方も抜群で、一度読み始めたら止まらなくなる面白さだった。最終回を雑誌で立ち読みしたときの衝撃も忘れられない。ちょうどその頃、リバーフェニックスが亡くなったこともあって、何かの符牒がぴったり合ったのようでいっそう印象的な場面として最終回は記憶に残っている。番外編の「光の庭」もまたいいんだな。(しみじみ泣ける)
川原泉はどれをとってもいい。読み切り作品も連載作品もどれもくすっと笑えるし、作者独自のものの考え方というのが色濃く反映されていて、単純だった私はずいぶん影響された気がする。絵はお世辞にも上手いとはいえないが、展開とセリフとでぐいぐい読ませるのだ。漫画にあるまじき字数の多さで、まあ字が小さかった。でもめんどくさいとは少しも思わず、端っこのほうに書いてある作者の手書き文字も見落とさずじっくり読みたくなるのが川原泉作品だ。
まず「笑う大天使」。一見お気楽に見える3人の女子高生がそれぞれに悩みや葛藤を抱えていて、けれど決して深刻になりすぎることなく優しく愉快にのらりくらりと現実世界を泳いでいくさまに憧れた。
「銀のロマンチック……わはは」はフィギュアスケート、「甲子園の空に笑え!」「メイプル戦記」は野球もの。競技スポーツを取り扱いながら、むやみやたらなスポ根を否定して、なんだかんだ言いながら勝ち進んでゆく主人公が当時は新鮮だった。
「バビロンまで何マイル?」はタイムスリップもので歴史もの。チェーザレボルジアとその妹のもとに、主人公の高校生二人がタイムスリップする話がメインどころ。血みどろといえる歴史の一幕を垣間見せつつ、決して重くならない。川原泉の血をわけた主人公たちはいつでもお気楽でのんきでお人よしなのだ。
挙げるときりがないのでこのあたりにするが、川原泉作品はとにかくどれをとっても底意地の悪さとか下品さとかがない。悲しくて切ない場面でさえどこか飄々としているのだ。そして、能天気でお人よしな登場人物たち。いつ読んでもどのキャラクターを見ても、憎めないのだ。
さらに大事なことは、男女が対等であること。ワンピースを着て踊るのが好きな男子高校生がいれば、中庭でアジの開きを焼く女子高校生がいる。繊細な男子とずぼらな女子。ひと昔もふた昔の前の少女漫画にはおよそ見なかった女性像男性像が、その頃から川原作品の中にはあったのだ。
守られ愛される性としての女性を強調した少女漫画も大好きだけれど、安心するのは圧倒的にそうではない川原泉作品だった。十分すぎるほど年齢的に大人になった今でも、学生のころと同じ感覚で読める漫画作品、それが川原泉作品だ。
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