“お悔やみ”を読んで思うこと
み江さんが亡くなって10日あまり経つ。その間、たくさんのお悔やみを読んだ。SNSでのオープンな言葉、メールやDM。長らくビジネスパートナーだったし四半世紀も友人関係なので、こちらに届くものも結構ある。とはいえやはり、み江さんがいなくなったことで深いダメージを受けているのが誰かと考えると、圧倒的にご家族であろう。
なにしろ息子さんは2017年6月生まれで、まだ1歳4ヶ月である。こんな小さな子供を残して旅立たねばならないとは、病気はつくづく理不尽だ。どんなご両親であってもこの状況はあまりにシビアだけども、み江さんも水野大二郎さんもものすごく教育に関してクリエイティブなかんじだから、2人して育てたらなんだかすごいことになりそうでもあったので、いっそう残念だ。2013年にあったみ江さんと水野さんの披露宴を鮮明に覚えている方も多いとおもうけど、それからわずか5年である。
水野さんは、育児、み江さん対応、大学教員というタスクを、かなり無理してやり繰りしていたようであった。私はそれを、ただ見守ることしかできなかった。これからも支援したいけど、できそうなのは、み江さんが雑に残していったものたちの整理くらいかな。いやそれすらも危うい。み江さんが京都で暮らしていた家を離れる前日、私とみ江さんで家を整理しても全然進まなかったのだけど、その惨状を見兼ねた水野さんとみ江さんの予備校での同僚が手伝い始めた瞬間、10倍のスピードで進み始めたことがあったし。
それはさておきお悔やみの文面を読むと、み江さんが傍からどんなふうに見られていたのかが多元的にわかる。イラストに言及する人、結婚お披露目会について綴る人、み江さんのファッションを振り返る人、知る人ぞ知るみ江さんの本気モードになるとすごい仕事ぶりについて語る人。私も忘れているような、勢いやノリでやったアホな行為を振り返る人もいる。み江さんではなく私が亡くなったと誤解してそうな文面も散見されたが、そういう勘違いも、SNS時代のお悔やみの自由さがあらわれていていいんじゃないかと思う。これまで「遠い自分の言葉なんて表面的で一面的だしご遺族が嫌がるのでは?」とお悔やみを軽々しく書くことを避けてきたけれど、これからはお悔やみを気軽に積極的に書いていこう。
み江さん自身のみならず、自分が共同していた「ぽむ企画」というものが、どう人の眼にうつっていたのかというのもわかる。昔の、自分にとっては超黒歴史である日記やネット上の「作品」を掘り出す人も結構いる。これは私としてはうれしくないのでやめてほしいのだが、み江さんは作風やクオリティが(傍目には)そこまで変化しなかったし、人前に出るものの完成度に超こだわる人だった(傍にいるとすごい待たされ大変だった)ので、み江さんにまつわる黒歴史というのは、実はあまり存在しない。どれをとってもけっこう面白い。アーカイブをいい具合にまとめたら、みんなが楽しめるものになると思う。
さて、み江さんと自分の間柄とは、なんなのだろう。とりあえず圧倒的に共有している物や経験が多い。家にある飾りものの大半は、み江さんによるイラストや、み江さんが入手した謎のオブジェである。元々み江由来のものがたくさんあったのに、5年前に京都から鎌倉に引っ越す際に家具や食器や本をどっさり引き取ったので、そこら中にみ江アイテムがある。1日のうち12時間くらい座ってる椅子もそう。毎日使う湯呑みも、めったに使わないやかんもそう。壁に引っ掛けたへんなニワトリのお面とか、馬のアタマがついたスティックとか、『勝手にシロクマ』のシロみたいな表情のヘビのおもちゃとか、うちにある謎アイテムはだいたいみ江コレクションである。そういえば”ぽむ"の由来である『伝染るんです。』全巻もうちにある。自分は情報には執着あるけど本という物体には執着がないので、結構何でも廃棄してしまう。み江さんの本もだいぶデータ化して捨てた。だけどこれは捨てるなと言われたのでとってある。もう捨てらんなくなった。
ちょっと地域に思いを馳せると、やはりみ江さんが出てきがちだ。ハワイ、パリ、イタリア、北海道。考えてみると仕事以外ではそんなに旅をしないので、個人旅行は、み江さんといっていることが多いのだ。楽しかったなあ。マテーラ、マウイ……。左京区をフラフラと自転車で走ると、これまた一緒に過ごしたところだらけなのである。喫茶店とか、スーパーとか。大学生の頃、クラス(T5)もサークル(美術部)もバイト先(ほんやら洞)も同じだったので、友人関係がかぶりすぎてもいる。こうなってしまったのは趣味が合うからで、たとえばカラオケのレパートリーとかもかぶる。戸川純とか。だから音楽を流しても、あ、これみ江さんとDVD流しながら『空き家の手帖』の骨格をつくったやつだ(昔のPerfume)となってしまう。昔み江さんとYMOを聞きながら、「音楽と記憶が重ならない人もいるらしいけど、ふつう重なるよね」なんてことも話したよな。
しかしこうした共有してきたものたちを、なんとか整理しないとならないのは確かである。まずはホームページからだな……。どう見ても、イラストの仕事を受けてくれる事務所にしかみえないし。これはそこまで大変だったり辛かったりすることではないけれど、とりあえず道のりは長そうである。
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