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上部がパカっと開く

2024/05/08

 一方の45度ほどが入口のように空いている洞窟に繋がる入り江。周囲は岩壁で囲まれているが上方は吹き抜けており、洞窟であると言ったのはその石の材質から断定した。黒い御影石?濡れている。じとっとした雰囲気。
 その入り江にA瀬とRちゃんが暮らしているのだと思ってここまで来た。先ほどから二人の声だけはずっと聞こえているのだけれど、一向に姿は見えないで、私は私の肩ほどの高さの入り江の壁に沿って周囲を歩き(この周囲と感じているものが洞窟の内部であったのかもしれない)、その肩ほどの高さの壁を爪先立ちで覗き込む。
 スーツケースとは大抵においてチャックは縦に縫われていて魚の干物のような開き方をするものだけれど、縦置き時の垂直に対して上部に横向きでチャックが縫われているスーツケース。その頭がパカっと開くように開閉するスーツケースが入り江の内にも外にいる私の周囲にも置いてある。そのスーツケースはここで暮らすための必需品であるらしく、それで水を汲んだり水を沸かしたりする。A瀬かRちゃんに声を掛けられて、私はそのスーツケースに溜まった澄んだ水を一口飲んだ。ここではこうするのが生活で、二、三日は泊まるのだから慣れるのなら早い方がいい。涼しい風が吹くのを頭頂部の髪に感じる。
 A瀬もRちゃんも見つけられずで困っている私に顔を見せるのは、さまぁ〜ずの三村。さまぁ〜ずの三村は、芦田愛菜ともう一人とロケをしている。(芦田愛菜ともう一人は三村と大きく世代間ギャップがある人物としてキャスティングされており、鈴木福が順当であるように思われるが、もう一人は私であったような気もする)
 ロケの内容はゲームショップで懐かしのカセットを手に取ろうという趣旨で(洞窟に繋がる入り江は木目調の肌色壁にグラデーションしていく)、芦田が選んだカセットには『46』というタイトルが書かれている。「えっ〜!愛菜ちゃんヨンロク知ってんの?!」と三村が声を上げる。「俺らとしたらお馴染みのヨンロクですよ!愛菜ちゃんたちの世代やんのっ?!」そこでもう一人(私)か芦田が「コンソール版で出来るんですよ」と言う。名作です、と言ったか言わないか。
 ヨンロクのゲーム性を三村が説明する。その説明の間、視界はヨンロクのゲーム画面になる。
 ヨンロクはゲームハードの情報処理に負荷を無理矢理に与える動きを、プレイヤーが意図的に操作することで、質量や物質を現実世界とゲーム世界とで交換をする。というゲームらしい。「欲しいなぁって、思うものあんじゃん、それを、こうやってこうやって(三村がガチャガチャとコントローラーを操作している)、入れ替えんのよ、現実と。呼び出してねっ、欲しいもんをまずに向こうに呼び出しといて、こやってこっちに入れんのよ」何か硬いものがこっちに転送される。
 三村が交換と言ったからには、何かひとつこちらから向こう側へ送ってしまったのだ、と数日経ってから気がつく。別にゾッともしないし、返して欲しいとも思っていない。

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