本音の盃

TWDのS4 ep12、「本音の盃」の感想。

安全だった居場所が崩壊し、その場に一緒に居た人間ととりあえず逃げるという状況で一緒に逃げたダリルとベスが仲間を探すため移動する、ある意味ロードムービーみたいな内容だった。既にS4もやっているのにあんまり見たことがない組み合わせだったため驚いた記憶がある。

農場の娘と、荒くれ者という組み合わせ。仲良くしている描写もほとんどない。そんな二人に焦点を当てたこのお話は一種の救いのようなお話だった。

ベスとダリルは全く別の世界の人間だ。おそらくこんな世界じゃなかったら出会うことのない人種同士だったと思う。一方は父に愛され母に愛され、たくさんの愛を受けて育った人。もう一方は父に愛されず母は死に、愛を知らなかった人。

そんな二人の旅路が上手くいくはずもなく、前半はお互い不満と仲間を失った悲しみから互いに衝突しており、おいおい大丈夫かと思いながら見ていた。(TWD世界線での仲違いは死を意味するので)

刑務所襲撃時に父を失ったベスは若干の自暴自棄におちいり行く先々で酒を探していた。今までは父親の言いつけを守りお酒は飲まないようにしていたが、それももう必要ないとのことだった。純粋無垢、までは行かないが父親の言いつけを守るようないい子で、少し弱い人。それが今まで描かれていたベスだった。

二人は仲間を探し進んでいく。途中寄ったゴルフ場でボストンバッグにぎしっり詰められた札束を発見した。その時の二人の反応が印象的だった。ダリルはバッグの中のお金を手で掴み必死に自分のカバンに入れていた。それを見たベスは、そんなモノなんの役に立つたつのか と問う。

家が貧乏で親も家庭環境も最悪。そんな中で育ち、大人になったダリルにとって、金というものはどんな状況下でも反射的に反応してしまうものなのであろう。今までの日常が崩壊し文明社会そのものすら消え去った世界で、一切の価値もなく、だだの紙切れになった紙幣を必死に自分のバッグに詰める、という描写が彼の今まで生きてきた人生を物語っているようだった。

二人はまた先に進み、バーを見つける。ベスは嬉しそうに酒を物色していたが、ダリルはそれに呆れているように感じた。お互いの価値観も育った環境も本当にどこまでも対象的な二人だと思った。

バーにあるほとんどの酒瓶はカラだった。唯一中身が残っていた酒瓶はあったが、ヴァージンを捧げるには相応しくないとダリルの謎の優しさから前に探索で見つけた一軒家に移動することになる。

ダリルの実家に似ていると称されたその家には酒が沢山あり、部屋の中も荒れに荒れていて今の二人を表したかのようだった。この家でも二人はまた衝突することになった。

酒を手に入れたベスが、「自分が経験したことのある事柄を言い、相手がそれを未経験だった場合、酒を飲ませる」というなんとも邪悪でデリカシーのないゲームをしようと言い始めたので、私は画面の前でハラハラしながら見守っていた。育ってきた環境が全く異なる人間同士の体験談は案の定破滅へ向かい、お互いの心の柔らかい部分をナイフで差し合うデスゲームに進化していた。

酒が入りデスゲームで弱さを知られ感情がぐちゃぐちゃになったダリルが、「刑務所が襲撃された時お前の父親を守れなかったことが悔しい」という本音を零した。ダリルという男は荒くれ者だが、素直だった。悲しいことは悲しいと自分の感情をきちんと相手に伝えられる人だ。そんなシーンを目にするたび毎回すごいなあ、と思う。素直というのは才能だ。

デスゲームによる言い争いは終息をむかえ、二人はお酒を交え面と向かって話をしていた。旅を通して衝突し、自分の弱さをさらけ出したことによって何でも話せる唯一無二の存在になった二人の関係性は素敵で尊いものだった。

これまで生きてきた人生、その過去が頭から離れない、というダリルにベスは、「自分はいつか死ぬ。明日や明後日の話ではないけどいつかは、そしてダリルは強いから生き残る。だから過去を忘れて生きていくの」そうダリルの目を真っ直ぐ見て言っていた。

ベスは強かった。今まで描かれてきた、"純粋無垢までは行かないが父親の言いつけを守るようないい子で、少し弱い人"という印象はなくなっていた。

実家に似た家で過去に囚われたままの自分の手を取り引きずりあげてくれたベスがダリルにはどう写っていただろう。誰かが誰かに救われる時は突然やってくるものだと思う。それは大抵自分にはないものを持っている人の思いがけない言葉だったりする。似たような境遇の人間同士では結局傷の舐め合いにしかならないから、だからダリルとベスだったのかと腑に落ちた。

そうして二人は先に進むため、家を燃やすことにした。そこら中に酒をまいて、ゴルフ場で見つけた札束に火をつけて、忌々しい実家に似た家を燃やした。過去も、弱い自分も一緒に燃やしたのだと思う。その様子を眺め、二人で思いきり中指を立て去っていった。

なんて美しい物語なんだろう。まさかゾンビもののドラマでこんな話がみれるとは思わず、完全に不意打ちのボディーブローを喰らいボロボロ泣いてしまった。こういう話に弱いので。

TWDは本当に面白いドラマですね。崩壊した世界で自分はどう生きるか、登場人物たちの葛藤がリアルに描かれており長いシーズンやっていますが飽きることなく見れます。見たことある方も、ない方も、TWD S4のep12「本音の盃」を是非!

おしまい

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