やっぱりバンドをやっている男にろくなのはいなかった
付き合ってはいけない3B、それは美容師・バーテンダー・バンドマンのことだ。
無論わたしは全制覇しているが、まあその通りである。わたしの経験上、バンドマンが飛び抜けてひどいように思う。
今回はそのバンドマンについて書いていこう。
一時期メロコアにどハマりしていたわたしはメロコアの聖地と呼ばれるライブハウスに出入りしていた。
その時期は色んな小さい箱に出入りしていたのでどこの箱で出会ったのかははっきりと思い出せないのだが、🦁さんとはライブハウスで出会った。
🦁さんは仲の良かった友達のバンド仲間でギターを弾いていた。顔は整ってはいるが強面で、両腕には七分丈までびっしりタトゥーが入っており怖かったのを覚えている。
🦁さんとはライブハウスで会った時に少し挨拶して話すくらいで、特にこれといった交流はなかった。
が、🦁さんはわたしを初めて見た時から「可愛い」と言って気に入っていたと後から聞いた。
ライブや飲み会などでバンド界隈の面子と仲良くなるうちに🦁さんのことも怖くなくなり、何なら見た目がめちゃくちゃタイプだったので偶像を崇拝する感覚できゃいきゃいしていた。
わたしには当時配偶者がいたが、度重なるモラハラに疲弊し家庭も壊れかけ離婚を考えている最中だったので、配偶者のことなどはどうでも良くなっていた。
ある年、仲の良いメンバーでフェスにキャンプをしに行くことになった。結構な人数がいたのだが、そこに🦁さんもいた。
仲間と参戦するフェスほど楽しいものはなかった。昼間から酒を飲み、好きな音楽を聴き、踊る。天国はそこにあったのだ。
そうこうして昼間散々はしゃぎ回ったわたしは夜になって完全に電池が切れていた。
キャンプサイトのテントのそばに置いてあるイスに座ったまま寝落ちていると、誰かの話し声で意識が浮上した。
「ぽむちゃんまじで可愛い。」
🦁さんと男友達数人の声だった。わたしはそれで完全に覚醒したが、気まずくて目を開けることが出来ず、そのまま寝たふりを続けた。
「結婚してなかったらガンガンいってた。まじで抱きたい。」
「ずっと言ってるよねそれ。」
「寝てる顔も可愛いんだけど。たまらん……。」
その瞬間、誰かが近くに来る気配がしたと思ったら顔の近くで携帯電話のカメラのシャッター音が聞こえた。
どうやら寝顔を撮られたようだった。
わたしはひたすら寝たふりをすることしか出来ず、なんとかその場をやり過ごしたのだった。
翌日、女友達に昨晩あったことを話すと、みんな当たり前という様子で「ぽむちゃんいない時もいつも言ってるよ」とのことだった。
知らなかったのはわたしだけだったらしい。
そこから🦁さんへの意識は止まらなかった。
そして事件は起きたのである。
その後、🦁さんの誕生日がありみんなでサプライズでお祝いすることになった。わたしもその会に参加しており、盛り上がっていたのを覚えている。
みんなの酒が回ってきた頃、なぜかポッキーゲームをしようということになり、🦁さんは「誕生日だから」という理由でわたしを指名した。
完全にキスをしなければならない流れができていた。
🦁さんは完全に狙っていたのだと思う。
わたしはドMという性質上、押されると流れることしか出来ない。
周りからも囃し立てられ、遂に🦁さんとキスをしてしまったのだった。
🦁さんへの意識は加速した。
そして気持ちが浮ついてしまい、様子がおかしいことに気付いた配偶者から激詰めされた。
わたしはゲロった。
そしてめちゃくちゃ謝った。
ゴミカスクソ外道配偶者は怒り狂い、わたしの携帯の中身を全部見てわたしの友達や🦁さんに電話して怒りをぶちまけていった。
キチガイである。
自分は婚姻中に散々風俗で遊んできておいて、わたしがこういうことをすればそれを棚に上げて鬼の首を取ったように怒り狂うのである。
何度も言うがキチガイである。
今思えばこの時に離婚するか殺しておくかしておいた方が良かったと思う。
そんな事件があり、わたしはバンド界隈と縁を切らされ🦁さんとも疎遠になってしまったのだった。
恐ろしいか? わたしの元配偶者のキチガイっぷりが。
そして時は流れ、わたしは数年後離婚した。それはもう壮絶なものだった。
鬱になって最初の一年は地獄でしかなかったのだが、ゴミカス外道腐れ元配偶者から解放されたわたしは🦁さん(バツ2)と会ってみたくなり、人生相談をするつもりで連絡を取った。
すると向こうもノリノリですぐに食事の予定が組まれた。
が、🦁さんからすれば鴨がネギを背負ってきただけのことである。
ことあるごとに「飯食ったらホテル行こう」「ラブホ近くにある?」と言っていたのだが、わたしは冗談だと思うようにしていた。
だが現実は違った。
居酒屋では離婚までの経緯やその後鬱になり大変だったことなど色んな話をした。
🦁さんは真剣に話を聞いてくれ、「俺ちょっとその辺よくわからないから教えてほしいんだけどさ、」などと、一生懸命理解してくれようとしていたのが印象的だった。
もしかしたらそこから前戯が始まっていたのかもしれない。
食事が終わると🦁さんは「ホテル行くよ!」と言った。押しに死ぬほど弱いわたしは困惑しながらもなす術なく、ラブホに連行されたのだった。
部屋に入りソファで少し会話をした。もう何を話したのかほとんど思い出せない。
そのうち🦁さんはシャワーを1人で浴びにいき、残されたわたしは緊張でバキバキになった目でベッドの端を見つめていた。
すぐに🦁さんが戻ってくる。
恥ずかしさのあまり身体を直視することが出来なかった。もうこうなったら逃げ道はなく、腹を括ってシャワーを浴びにいった。
わたしの身体を見た🦁さんは大喜びで、ひたすら「エッロ」を連呼していた。
憧れだった人とのセックスだったが、あまり嬉しいものではなかった。
そこにわたしの意思はなかったからだ。
どこに行ってもわたしは大事にされず、こうして消費されてしまうのだという現実を突き付けられ、絶望にも似た感覚を覚えた。
そして🦁さんは初めからゴムを使わず、何の断りもなくわたしの中で射精した。
🦁さんは、わたしが妊娠しないのを知っていた。
なぜか?
この数時間前に「産後に感染症を起こして死にかけて、子宮全摘したから妊娠できなくなっちゃったんです」とわたしが打ち明けていたからだ。
🦁さんとの時間は確かに楽しかった。
お互い浮かれて別れ際にキスをするくらいには楽しかったのだ。
だが、わたしの胸の中には、暗澹たるものが蠢いていた。
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