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アメリカで経験した保護犬引き取りまでのあれこれ

アメリカの人口あたりの犬の頭数は日本の3倍だ。そしてなんと、安楽死(殺処分)の数は87倍という数字が出た。統計の仕方や数え方が国で違うのだろうか、驚くべき数字だ。そう、アメリカでは年間355,000頭の犬が安楽死を迎えるという。

https://bestfriends.org/no-kill-2025/animal-welfare-statistics

それに呼応して、3,500のシェルターと14,000のレスキューNPOが全米に存在するという。シェルターも分化して、通常のシェルターとNo Killシェルターが存在する。通常シェルターでは3-4割の犬が安楽死を迎える。

私が保護した犬は、もともと野良犬だった。テキサスのとあるシェルターに引き取られたが、このシェルターでは何と9割が安楽死するという。ここから、No Killシェルターに運よく引き取られ、提携するニュージャージー州のレスキュー団体に保護された。そこを通じてウチに来た。推定一歳2ヶ月にして難関をくぐり抜けてきた。それでも私を見れば尻尾を振り、名前を呼べば何の疑いもなく飛ぶように駆けてくる姿には力強い生命力と魂の美しさすら感じる。

我が家の保護犬アロー

別の統計では、犬を飼育する家庭のうち、40%がレスキューから引き取り、21%がブリーダーから購入している。友達、親戚から引き取った数が意外にも高く、18%に上る。

犬に対する需要に対して供給が追いついていないから、ブリーダーによる繁殖を推奨する専門家もいれば、近隣のメキシコやプエルトリコ等から引き取ることを推奨する団体もある。人間と密接に居住を共にする生物に対する議論はいつの時代も白も黒もないことを考えさせられる。自分の意見が言えるのであれば、毎年サンクスギビングの日に開催されるNational Dog Showで、雑種も対象にして欲しいと思う。現在のDog Show参加資格は下記の通り。”Any intact purebred dog at least 6 months old and registered with the AKC is eligible to compete in the show ring.” (AKC=アメリカンケナルクラブ。1884年に米国で設立されたケネルクラブで、全純粋犬種の犬籍管理などを統括している愛犬家団体)

犬を迎えるにあたり、おおよそ一年前からレスキューグループを探したり、何となしに情報を集めていた。運営が行き届いている組織から、要所要所で不透明な組織、手弁当感たっぷりなところまで、共通の運営ルールはなく、三者三様だった。

当初シェルターとレスキューの違いもわかっていなかった私は、レスキューを通じてシェルター(施設)で引き取るものとばかり思っていた。それもとても簡単なプロセスで、パッと行って気に入った犬を見つけたら、そのままタオルに包んで持ち帰るような、そんなイメージを抱いていた。平成初期の小学生時代、殺処分施設から犬を引き取った友達の話から情報が更新されていなかった。

まず、シェルター。近所にNo Killシェルターがあったので、訪ねてみた。本当に、プラッとカジュアルに。30分ほど滞在しただろうか、出てくる頃には、心が疲れ切っていた。あまりにも悲しい現状を目の当たりにしてしまった。9割が大型犬で、前から後ろから横から、彼らの野太い鳴き声がひっきりになしに鳴り響いていた。前を通れば、柵を飛び越えんばかりの勢いで接触を期待する者や、疲れ切って顎を伏して寝ている者もいた。高い天井には巨大な換気ファンが備え付けられていたが、そんなものでは追いつかないくらい、尿や体臭の匂いで溢れかえっていた。「25ポンド以下の犬じゃないんと飼えないんです」と見学担当者に伝えると、小さい犬は施設に来てから数時間以内にはいなくなるから、定期的に来てチェックするしかないと言われた。

小型犬競争はレスキューでも同様だった。組織的に気に入ったレスキューから引き取りたいという気持ちが強かったが、そんなこだわりは簡単に捨て去られた。結局Pet FinderASPCAといったレスキュー団体の総締めのようなプラットフォームで探す日々が続いた。各登録レスキュー団体の引き取り可能な犬情報が一箇所にまとめて掲載されている。条件に合う犬を見つけては、その犬を保護しているレスキュー団体に申込書を書く日々が続いた。先述の通り、レスキュー団体毎の運営方法が三者三様のため、申請書も短いもので3ページ、長いもので8ページほどある質問項目を埋めていたった。それもYes/Noといった簡単なものでなく、自由解答なものが多かった。冷静かつ情熱的な回答を心がけた。「引っ越ししたらどうしますか」「どうしようもなく飼えない状況が来たらどうしますか」といった答えるべき回答が明らかなものから、答え方次第で合否が分かれそうな「犬をどこで寝かせる予定ですか」「散歩のスケジュールは」「庭はあるか」「年間どのくらいの費用を用意しているか」といった質問、大家の連絡先、参考人2名の連絡先、場所によっては運転免除番号や年収まで聞かれた。あまりに度が過ぎると思った団体には申請しなかった。(ソーシャルセキュリティーを聞かれたら即サイトを閉じられることを推奨する)
申請後の反応は以下のようなものだった。
1. 申請者に一報もなしに大家に連絡。驚いた大家がそのままリジェクト。
2. 連絡なし
3. 既に引き取り手が見つかっている(ネットの情報が最新でない)

いくつかのレスキュー団体に登録していくうちに気づいたことがあった。私が主に見ていた、ニューヨーク、コネチカット、ニュージャージ州にある団体の多くがテキサス州から犬を保護していた。韓国から、などというところもあった。
実のところ、テキサス、カリフォルニア、フロリダ、ノースカロライナ、アラバマ、ルイジアナ州5州での総殺処分頭数は全米の50%にものぼる。テキサス州では避妊手術の普及率が低く、メキシコから流れ込んでくる野良も多いという。かくいう私の犬も実はメキシコ由来なんじゃないかと思っている。

https://bestfriends.org/no-kill-2025/animal-welfare-statistics

私が把握できたところのプロセスを図式化してみた。

プロセス

日本ではどのようなプロセスが一般的なのかを把握できていないが、思っていた以上に複雑な上、レスキュー団体のHPではあまり詳細に説明がなされていない印象だった。
私はスキーム1のパターンで保護犬を迎えた。Pet Finderからレスキュー団体 (HPはこちら)と繋がり、HPに掲載されている引き取り可能な犬を指定の上、申請書を提出。その後、Adoption Eventへ参加し、そこでは実際に犬に会うのではなく、Match Makerと呼ばれる選定人を紹介された。その選定人は複数いる希望者の中からどの家族が一番適しているかを判定する仕事を担うボランティア。希望者の申請書を読み、大家や保証人にMatch Makerから直接連絡し、事実関係の確認をとる。判定順は先着順だが、結果は必ずしも早い者勝ちとは行かない。それでも我々は朝の5時に起きて2時間ほど車を走らせ、ニュージャージーにあるレスキュー団体を訪れた。幸い、整理券番号1番だった。
このスキームの問題点は、引き渡し日までに犬に会えないこと、また犬の性格やトレーニング状況といった不安や心配を払拭してくれる生きた情報がなかった。肝心のMatch Makerすら自分が担当する犬に会っていないため質問しても糠に釘だった。私の犬は引き渡し日のその日の朝にニュージャージーの団体に到着した。出会った時には疲れ切っていたことだろう。帰りの車で2回嘔吐している姿を見て、テキサスからのロードトリップが彼にとってどれだけ壮絶なものだったかを思い、切なくなった。

私の見てきた団体のなかで一番よく考えられていると感じたのが、スキーム2だった(HPはこちら)。この団体もまたテキサスから犬を保護し、ニューヨークに移送後、Fosterと呼ばれる一時的に犬を預かるボランティアの家に保護犬を預ける。保護犬を引き取りたいと考えている人は、犬を指定せずにまずはその団体に登録申請して許諾されると、Adoption Eventの告知を受け取れる。そして隔週で行われているAdoption Eventに出向いて会いたい犬を告げると、順番待ちの後に20分の面会時間を設けてくれる。犬に直接会えるだけでなく、Fosterも立ち会い、家での様子や気になる点などを共有してくれる。保護犬はどうしても保護犬なりのトラブルを抱えていることが多く、個体の性格以上に問題となることが多いという。引き取り前に、そういった情報にアクセスできること、覚悟を持って引き取れることは里親だけでなく、保護犬の幸せにつながる。驚くことに20%の保護犬が6ヶ月以内にシェルターに戻っている。また、保護から6ヶ月後、60%の犬がすでに保護した家にはいない状況なのだそうだ。我々も目の当たりにした、返却行為。ある犬を引き取る予定でいた。我々より先に申請していた家族が結局引き取ることになった。二週間後、まだ興味あるか、との連絡がきた。聞くところ、引き取った家族の予想を超えた素行だったようでFosterの家に戻ってしまったようだ。飛行機の音だけで吠えてしまうような、とても怖がりの犬だったようだ。

これが正解と言ったものではないが、試行錯誤して掴んだ感覚を今回はシェアしたかった。結局は一期一会で、出会えた犬を引き取った、と言った結末ではあったが、我が家の保護犬アローは引き取り後2日でへそ天しちゃうほど、愛嬌たっぷりでお散歩時の拾い食い以外、特に問題もなく素直に順応してくれている。執筆中も大人しくクレートで寝てくれている。それでもそれは偶然の結果論のように感じている。プロセスを検証することで減らせるリスクや負担は十分にあるように感じた。

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