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手術当日①

手術日が決定した金曜の夕方からあっという間に土日が過ぎ、せっせと書類整理や提出をしているうちに月曜も過ぎ、ついに手術日がやってくる。

13時30分からの手術なので、6時50分頃に朝食としてインスタントの味噌汁を飲んだ。「軽めなら可」の程度がよく分からなかったというのもあるが、術後の排便に大きく影響が出たらという恐怖心が大きかった。

そして、下剤でお腹をからっぽにしないかわりに「当日朝にお通じがなかったら座薬を入れるように」という指示があった。
幼少期に高い熱が出たときに入れられた経験はあるが、自分の手で入れたことはないし、なによりも長さがすごかった。3センチくらいあって、太さも結構あった。


でっかいロケットじゃん……


ドS女医がドスドスしてきた肛門鏡にははるかに及ばないにせよ、これまで注入してきた軟膏の差込口に比べるとやはり馬鹿でかく感じる。
絶対に自然なお通じをやり遂げるぞ!!!!座薬こわい!!!!!
そう決意してみたが、

出ねぇ。待てど暮らせどびくともしねぇ。



手術前日から当日までの心得を説明してくれた看護師さんの言葉をふと思い出す。

「当日はね、緊張すると思うからいつも出てるって人も出なくなっちゃうことがあるから……出ないな〜って思ったら出発2時間前までに使ってね」

確かに緊張しているし、影響はあるだろうなと思った。座薬の大きさには恐怖しかないが、術後すぐに便意を催したらと考えるとそちらのほうが俄然恐ろしく感じる。思い切って座薬を使うしかない。

自分で入れるときの座薬の使い方を調べていざ実践。
絶対引っかかって痛いんだろうな…と思っていたが予想に反して抵抗なく入ってゆくでっかいロケット。
スイィ…と静かに体内に収まる感覚が謎に面白くてひとりで笑ってしまった。

座薬を入れてしばらくは不思議な違和感があったが、ぼんやり便意を待っている間に気にならなくなり、30分ほどで便意がやってくる。
特に腹痛があるわけでもなく自然に近いお通じの感覚で、不快感はなかった。

その後は家事をやったりゴロゴロしたりしてのんびり過ごし、出発の時間に。
玄関ドアの施錠をしながら「次このドアを開けるときは尻を切られてるんだな」としみじみ思った。不安感はもちろんあったが、手術が決定した日の診察での先生の言葉が背中を押してくれていた。


「痔って癌みたいな病気じゃないから手術してもしなくてもいいんだよ、手術選ばない人ももちろんいるからね。でもぽみさん、それ邪魔でしょう? たくさん患者さん見てきた先生的には、絶対手術!とまでは言えないけど、オススメは手術かな〜」


いつもニコニコ優しい先生は、色々調べていくととても腕のいい名医と呼ばれるお医者さんだと知った。
その先生がオススメするんだから、手術するしかない。しかもその先生が私の尻を切ってくれる。名医に切られるなら尻も嬉しいはず!!!!ヨシ!!!!!!!!

そんなことをぐるぐる考えつつ移動。バスと電車を乗り継いでクリニックに到着したのは13時。色々と準備があるとのことで30分前までに到着するよう指示を受けていた。
到着後の流れとしては、


①手術同意書、診察券、問診票を受付のお姉さんに渡す

②診察室に呼ばれて先生に応援されながら(がんばろうねぽみさん!ね!まずはテープ貼るよ〜!と力強い応援をいただいた)、看護師さんに麻酔のテープを貼られる

③手術前の着替え。尻のとこだけ穴の空いた紙パンツの上に可愛い柄の病衣を着る。

④着替えが終わったら手術室で待機


こんな感じだった。
②の麻酔のテープは、仙骨硬膜外麻酔という麻酔を打つ時にできるだけ痛くないように、という魔法みたいなテープを手術が始まるまで貼っておくというやつ。

③の着替えについては金具の付いた下着はつけられないとのことで、ブラトップを家から着用して行った。
ノースリーブのブラトップだったのでその上から長袖のヒートテックを着ていたが、着替え前の説明で「肌着は一枚だけ着ていていい」と伝えられていたので、ヒートテックは脱いだ。靴下は履いていても脱いでも良いと言われ、術後もう一度履くのが面倒だと思い履いたままにした。

そうして自分の足で手術室に入る。
換気扇の音だろうか、ゴアアアアアアア!!!!とすごい音がしていて、結構寒い。靴下履いてて良かったなぁ。

「ぽみさんこんにちは。本人確認しますから、お名前と生年月日をお願いします」

手足の冷えで縮こまっていると、ケーシーの上に青いエプロン(ビニールのやつかな?)をつけた看護師さんがやって来た。言われるがままに名前と生年月日を伝える声が震えていて、自分が緊張していることを知る。寒いのは緊張のせいもあったかもしれない。

「はい、大丈夫です。じゃあ点滴しますね。台の上にまずは仰向けになりましょう、利き手は右ですか?」

「右です」

仰向けになりながら答えると「じゃあ左にしましょうね」と看護師さんは優しく笑った。天使だ。
病衣の袖を捲られてゴムのようなベルトでぎゅっとされ、腕をさわさわされる。しかし一向に針は刺さらず、看護師さんの困惑した気配が伝わってくる。血管が見つからないというやつだろうか。

「ごめんなさいね、右も見ていいですか?」

天使が困った笑顔で言う。

「ええ、もちろん」

ベルトでぎゅっとされたあと、右腕をさわさわされる。やはり天使は困惑していた。健康診断で採血されるときなんかはすぐに刺されるのにどうしたのだろうと思う。不安よりも申し訳なさが勝った。

「なんかすみません……」

私が言うと天使は「いえいえ!全然!」とやはり優しく答えてくれた。そんなやり取りをするなかで無事に針が刺さる感覚があり、すぐに血圧をはかる機械をつけられる。血圧をはかる時の腕が圧迫される感覚が好きなので、フフ…と思っていると今度は点滴の針をつけたまま台の上でうつ伏せになるよう指示される。
点滴の管?に腕を引っ掛けないよう気をつけつつ慎重に体位を変えていると、人の気配が増える。頭を向けているのとは逆側、つまり尻の方向に出入り口があるのでどんな人が入ってきているのかは見えない。

うつ伏せになると、右か左の頬を枕につけておくか、顎を枕につけておくか聞かれ、特に理由なく右の頬を下にすると、心電図モニターが目の前にあって、ドラマとかで見るやつだ…とぼんやり思った。

「ぽみさんこんにちは、これから麻酔入れていきますよ。チクッとするけど頑張りましょうね」

男性の声がしたが、ニコニコ先生ではなかった。ニコニコ先生はどこなの。もしかしてニコニコ先生じゃないお医者さんが手術するのか?と、不安になる。麻酔のテープがべりっと剥がされると「いきますよー」の声とともに尻の割れ目のてっぺん辺りに針が刺さる感覚があった。


「う゛ッ」


思わず潰れた声が出た。チクッという痛みのあとに、ズズズ…と内部に入ってくる感じがする。その後にグヌヌヌヌ…と更に押される感覚がして、思わず台の端っこを握りしめた。
天使たちが「がんばってね、もう少しだよ」と応援してくれるなか「ぽみさーん」と馴染んだ声に呼ばれる。
ニコニコ先生が来てくれた!

「ぽみさん麻酔痛いねぇ、もうこの後は痛いことないからね、大丈夫、眠ってる間に終わっちゃうからね」

ニコニコ先生が台を握りしめている私の手の甲をぽんぽんと優しく叩いた。緊張と不安が凄まじく、力ない声で「はいぃ…」としか言えなかったが、先生が励ましてくれたことが本当に嬉しかった。
そんなこんなしてるうちに台がウイーンと上がって、「それじゃあ眠くなるお薬を入れていきますよ」と天使の声がして、その2秒後くらいに視界がボヤッとし始める。
なんだこれ、なんだこれ!?と思っている間に視界のボヤッは増し、その後すぐに「ぽみさーん、終わりですよ〜」と呼ばれた。



マジで秒だった……



そうして車椅子で休憩室のようなところに運ばれ、点滴をつけたまま横になるよう言われる。一時間位休憩してから術後の注意点などの説明と傷の診察を受けて帰るのだそうだ。
意識がぼやぼやしているせいで「手術中寝言とか言ってませんでしたか」なんて質問をしていた。「大丈夫でしたよ」と天使は笑った。

「寝ていいですからね、体を休めてください」の言葉に眠れるだろうかと思ったが、天使がカーテンを引いた後すぐに強い眠気に襲われてガクッと眠ってしまう。
次に声が掛かったときにはおそらく一時間が経過していて、目の前に別の天使がいた。
「歩けそう?どうかな」と質問されて自分の足に触れてみると、長時間正座を続けた後のようなしびれが左足にのみ残っていたのでそう伝える。結果休憩が延長になった。
その後は眠くなることもなく、本当に手術したんだな…というなにか信じられないような気持ちで横になっていた。まだ麻酔が切れていないから痛くないけど、痛くなったらどのくらい辛いんだろう…とか。

ぼやぼや考えているとしびれも収まってきて、再度様子を見に来てくれた天使がその場で術後の注意点などを説明してくれた。
とにかく痛みが不安だったので「耐えられるでしょうか」と質問すると「痛みの感じ方は人それぞれだから、翌日我慢ができなくてブロック注射を希望する人もいるし、痛み止めの頓服を全然使わなくても過ごせちゃう人もいます。蓋を開けてみないと分かんないってところはあると思いますが、痛みがあるというのは本当です」と眉を下げながら答えてくれた。
まあそうだよなぁ、生理痛に個人差があるのと一緒かぁ…と納得しつつ説明を受け、その後は先生に傷を診てもらった。

「今はね傷もあるし糸も出てるし時間が経てば痛みも出てくるけど、治った暁には超キレイになるからね!」


ニコニコ先生は元気よくそう言ってくれた。
超キレイな尻、めっちゃ良いやん。思わず私もフフ…と笑った。
先生の説明によると私のいぼ痔は「内外痔核」というやつで、中にも外にもいぼ痔があるという状態だったそうな。
いぼは合計3つで、ほとんどを切除したけれど注射の適応になるいぼは注射したよ、とのこと。
いろいろ調べていると「だいたい3つくらい」というのが平均らしいので、平均的ないぼの数でよかったなぁ〜と思えた。
次回の予約を取ってお会計。思ったより高くなかった。

もっと高いかと思ってた


薬局で痛み止めや胃薬、便を柔らかくする薬、塗布薬などなどをもらって帰宅……するんだけど、これがすごく大変だった。
電車に乗ってしばらくすると、急に激しい目眩と吐き気に襲われて、音が遠退くような感覚がする。なんだなんだと思いながらとりあえず途中下車。冷や汗をかきながらホームのベンチで休憩。
傍から見たら酔っ払いに見えなくもないような姿勢でぐったりしていたが、夕方の早い時間だったからか誰に声をかけられるわけでもなく過ごせた。大丈夫ですか?と声をかけられてしまったらどうしよう、今しがた痔の手術を受けてきたんですと言うのは嫌だな……と思っていた。

早く家に帰って横になりたい一心でどうにか電車に乗り、その後バスに乗り換えて帰宅したが、高くついてもタクシーを使うべきだったと後悔した。

あとから調べてみたところ、強いストレスや緊張にさらされることで貧血のような症状が出ることもあるらしい。医学的な知識はないから間違っていたら恥ずかしいけど、まあそんな感じの諸々があって大変だった。

なのでこれから日帰り手術を受ける人はお迎えに来てもらうとか、タクシーを使うとか、できるだけ無理しない方法で帰宅するといいと思う。クリニックと自宅が離れているのなら尚更無理しないことが大切かな〜というのが私の感想。

短い時間で終わる手術でも結構消耗するんだなぁと実感した一日だった。
帰宅後からのあれこれは次の記事に書く。

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