下り坂をそろそろと下る
平田オリザ/著
もはや、そこで得られる知識や情報=コンテンツは世界共有になってしまったのだ。かつては、東京に行かなければ得られない知識、あるいはパリやニューヨークまで行かなければ得られない情報というものが確かにあった。しかし、いまや、どんな情報も知識も、インターネットで簡単に手に入れることができる。そのことを大前提にしつつ、それでも「ここで、共に、学ぶ」ことが重要な時代になってきたのだ。もはや、学校の、少なくとも大学以上の高等教育機関の存在価値は、新しい知識や情報を得る場所としてではなく、共に学び、議論し、共同作業を行うという点だけになった。
競争と排除の論理から抜け出し、寛容と包摂の社会へ。道のりは長く厳しいが、私はこれ以外に、この下り坂を、ゆっくりと下っていく方法はないと思う。