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木曜日連載 書き下ろしチョイ怖第二話『Re:Co゠miu』 第六回

 初めましての方、ようこそいらっしゃいました。
 二度目以上お運びの方、本日もありがとうございます。
 こんにちは、あらたまです。

 木曜日は怖い話の連載。
 第二話は【御愛読感謝企画】です!!
 テーマは『オバケよりヒトが怖い』ですが、ところどころに「クスッ」と口元がほころんでしまうかもしれない仕掛けを施して、皆々様にお届けします。
 連載一回分は約2000~3000文字です。
 企画の性質上、第二話は電子書籍・紙書籍への収録は予定しておりません。
 専用マガジンは無期限無料で開放いたしますので、お好きな時にお好きなだけ楽しまれてくださいね。
 ※たまに勘違いされる方が居られるとのことで、一応書いておきますと『無期限無料の創作小説ですが、無断転載・無断使用・まとめサイト等への引用は厳禁』です。ご了承くださいませ。


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【第六回】

 『こんにちは♪RICOです☆彡
  リノベーションは順調です。ベッドルームがおおかた出来上がったので、仮住まいのホテルは引き払いました~!
  一部屋だけなのに、解放感スゴイの。おうちが広くなったから、夢だった【猫のお迎え】をしました』

 みゅうの御部屋改造計画がスタートして二週間も経たぬうちに。
 RICOの田舎暮らし通信に最新記事がアップされた。

 RICOは朽ちた古民家に拠点を移してから発信の軸足をSNSからブログへと移行していた。
 みゅうがスマホの画面を慣れた手つきで操作すると、殺風景な庭越しに臨んだ青い山々や雑木林、散歩道で見つけた名も無き花などの牧歌的な写真が次々と繰り出される。
 相変わらず、RICOの自撮り写真は無かった。
 「ん?……え、これ猫なの?」
 一枚だけ、座した四つ足の動物を正面から撮った写真があった。
 長毛の、恐ろしく大きな、灰色の……随分と精悍な顔つきで、人に飼い慣らされるような雰囲気ではない。RICOが【猫】書いているのだから猫に見えなくもないが、どちらかというと猫科――山猫或いは豹と言った方がしっくりくる。
 いや……しかし。
 そもそも、この動物は果たして猫科なのか?それすらも、なんとなく怪しくなってくる風貌である。
 犬と言われたら、大きなワンちゃんですねと話を合わせてしまうだろう。
 狼じゃない?と疑うこともできるし、ハッシュタグで狐と書かれていたらそうか狐か!と信じてしまいそうだ。
 いずれにせよ、初見で「わあ、かわいい猫ちゃん!」とは思わないだろう。ノーヒントでは難易度が高すぎて、明確な根拠はないけれども不安しか覚えない、そんなフォルムと威圧感だ。

 目まぐるしく更新されるコメント欄では、彼女のペットに関する質問で持ちきりになった。
 こんなに大きな猫ちゃんて、もしかしてノルウェージャンですか?との問いには、一言『NO!』と返事が。
 じゃあじゃあ、メインクーン?この質問にも『NOだよ!』と、だけ。

 『この子はね、世界でただ一匹しかいない動物なの。
  どんな種類にも分類されない、私だけの相棒。
  私が猫ちゃんて呼ぶから、猫』

 「どゆこと?」
 みゅうは首を九十度横に傾げた。
 RICOが猫だというのだから、この動物は猫という分類になったのか。
 それともRICOがこの動物に、猫という名前を付けたから猫と呼んでいるということだろうか。
 『私も飼いたーい!』
 『RICOさん、ヒント。もっとヒントお願いします』
 猫に関する質問や情報を求めるコメントはその後も続出だったが、以降に彼女からの猫情報はアップされなかった。

 その代わり――

 小型軽量カメラによる撮影だろうか?
 「猫目線」とだけキャプションが付いた15秒動画がアップされた。
 深い叢の中を、カメラが一気に駆け抜けていくだけの、クソつまらない動画だった。


 みゅうの部屋はペット禁止物件だ。
 御部屋改造にOKを貰うために仕方なく、いちいちムカつく態度で説教を垂れてくるオーナーのババアに頭を下げたが、これ以上アイツに貸しを作るのは御免だ。
 それに……猫は生き物だ。さすがにアクセサリーや洋服のように気軽に買うなんてことはできない。

 みゅうはおばあちゃんの家で飼われている柴犬を思い出していた。
 並んで寝そべった、縁側の。
 日向のにおい。
 寝言なのか、いびきなのか、判然としない鼻息。

 「決めた。予定を変更するわ」

 ベランダとリビングの段差をなくし簡易のサンルームを作るために、長さを多く見積もった材木を用意したのが功を奏した。
 床に張り付けるのではなく、天井に向けて材木を立ち上げた。
 「いいんじゃないのぉ。サイズ感、バッチリ」


 二日ほどの悪戦苦闘の末にみゅうが部屋に設えたのは、キャットタワー――を模した怪しげな木造立体オブジェだった。
 もちろん、これに昇ったり爪を砥いだりする猫はいない。
 皿に油を切った缶詰のツナ(もちろんみゅうが食べるために買ったものだ)を盛りつけ、ボウルに水を入れる。
 「こういうのはね、におわせるだけでも良いのよ。そのうち『引き寄せ』ちゃうんだし!」
 出来たばかりのキャットタワーもどきとごはんコーナーの写真を撮り、それらしいキャプションを付けてアップする。

 「偶然?奇跡?うちにも猫がやってきちゃったんだよねー!……なんて、送信っと」

 みゅうのスマホの通知が鳴りやまない。

 「うふふ……RICOさん、愚かな一般人てチョロいね」

 画面を見ながら薄く笑う彼女はコメントに返事を書くのに忙しい。
 どのくらい忙しいのか、というと。
 たった今、自分でアップした写真の中の【皿の上のツナが半分ほど減っている】のにも気づかないほどに
 「こうやってわたしを支持するフリをしてる一般人の中に、必ずいるはずなの。わたしのことを本当に必要としていて、わたしが真に導くべき、本物の使命を持った……昔のわたしみたいな子がね」

 うふふ……と、みゅうは肩をすぼめるようにして笑った。
 RICOの後を追いかけ、彼女のそばで輝き、理解されずに苦しみ藻掻く女の子を救い上げる。その道を、わたしは順調に進んでいる。RICOの後継者は自分に間違いないのだ、と。
 恐ろしいまでの手応えと自信に、みゅうの胸は熱く高ぶっていた。

 ツナ缶を開けた皿は、すっかりキレイになっていた。
 一かけらも残さない執念を感じるほどに、隅々まで舐めとられた……かのようだった。
 チラリ、と。
 みゅうはその皿を見やった、のだが。
 何事も無かったかのように再びスマホの画面に視線を戻し、SNSの巡回を続けた。
 気付かなかった……わけでは、ない。その証拠に。
 「足りなかったか
 彼女は何の疑問も持たない素振りで、再びツナ缶を開けるために台所へと向かった。 


 代り映えしない部屋の中に籠っていても、季節は巡る。
 ギターの練習を終えて、は自転車の鍵をデニムの尻ポケットに突っ込み、エアコンの効いた涼しい部屋を名残惜しそうに一瞥してから靴を履いた。

 「うっへえぇぇ……あっちぃぃぃ」

 あら、こんな時間からバイトかい?と、例によって共有通路の掃除をしていたボロアパート……ではない、アンティークの趣漂うマンションのオーナーに声を掛けられ、彼はめいっぱいの愛想笑いで応えた。
 愛想笑いだけは、小さい頃から良く褒められた。
 おかげで土地勘のない場所での暮らしで困ったことは無い。ニコニコしておけば、世話焼きタイプの諸先輩がたがあれこれと面倒をみてくれる。食費を節約すべく腹の虫を鳴くままにしていると、見かねて飯を奢ってくれたり。バイトのシフトを融通してもらえたり。
 ここのオーナーのおばさんも、そういう世話好きの典型だ。
 (ここの【ヤツ】ももうちょいアレだったらなあ。相変わらずイモ臭ぇんだろうなあ)


【第七回】に続く


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 それでは。
 最後までお読みいただいて、感謝感激アメアラレ♪
 次回をお楽しみにね、バイバイ~(ΦωΦ)ノシシ


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虎徹書林店主あらたま
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