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木曜日連載 書き下ろしチョイ怖第二話『Re:Co゠miu』 第五回

 初めましての方、ようこそいらっしゃいました。
 二度目以上お運びの方、本日もありがとうございます。
 こんにちは、あらたまです。

 木曜日は怖い話の連載。
 第二話は【御愛読感謝企画】です!!
 テーマは『オバケよりヒトが怖い』ですが、ところどころに「クスッ」と口元がほころんでしまうかもしれない仕掛けを施して、皆々様にお届けします。
 連載一回分は約2000~3000文字です。
 企画の性質上、第二話は電子書籍・紙書籍への収録は予定しておりません。
 専用マガジンは無期限無料で開放いたしますので、お好きな時にお好きなだけ楽しまれてくださいね。
 ※たまに勘違いされる方が居られるとのことで、一応書いておきますと『無期限無料の創作小説ですが、無断転載・無断使用・まとめサイト等への引用は厳禁』です。ご了承くださいませ。


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【第五回】

  『尊敬する人が思い切った決断をしました。その人の生き方、憧れなんですよねえ♡♡♡
  なので私も!
  フォロワーさんの励ましや応援に感謝。この家を買いました。
  リノベーションして、こだわりいっぱいつめていくよ。
  夢を追いかけてれば、元カレのことなんてすぐに忘れちゃうね……なんちゃって! RICO』

 外観は昔話に出てきそうな家だった。
 茅葺なのだろうか?枝を分厚く積み重ねたように見える屋根にはよくわからない草がぼうぼうに生えていて、ところどころに花が咲いている。
 わざわざ裏に回って撮ったのだろう、縁側から室内を臨み、天井が落ちているところや床の抜けた写真も上げられていた。
 リノベーションとカタカナで言えば聞こえはいいが、素人が雰囲気で仕上げられるようなものではない。RICOの使命感は尊敬するけれど、それに見合うスキルの習得は追いついているのだろうか?と、みゅうは心に引っかかる『何か』をそのままに、とりあえず画面のスクロールを続けた。

 「実家の近所?……じゃないよね」

 彼氏と別れたからって、RICOさんどうしちゃったんだろう――昏い喜びを覚えたのも束の間、みゅうの心は静まり返った段ボール箱だらけの部屋の中で漫然とたゆたうばかりだった。
 輝くような生き方をすることで、かつてのみゅうのような女の子の元気の源になって、さらには、彼女たちの【使命】を呼び覚まさせる……そんな未来地図に小さな虫食いを見つけたみたいな気分だった。
 (RICOさんに憧れて、RICOさんみたいになりたくてここまで来た私って何なの?)
 気怠く体を起こし、ソファーの背凭れに顎を乗せて、目玉だけをゆっくりと動かして室内を見渡した。
 彼女の夢が詰まっているはずの箱たちは、みゅうに開封して欲しくてたまらないはずだ。しかし、当のみゅう本人はそれらに向き合うのを土壇場で躊躇ってしまう。
 この部屋に満ち満ちている、夢の箱が積まれた光景とにおいは、実家の二階や離れの風景を無理矢理思い出させるから。逃げ出すことに成功したはずの、あの田舎暮らしが追いかけ、追いついたみたいに思えたから。
 箱を開けた途端に、そこから飛び出す何かに肩を掴まれ髪を握られ、引き戻されてしまいそうな――

 そして、今だ。なにがどう転がったというのか。
 みゅうが為りたかった偶像は、彼女が一番好ましくないと信じる現実へと跳躍してしまった。
 彼女の思いも、努力も、何も知らずに。

 おもむろに、スマホの画面を鼻先に持ってきた。
 みゅうに負けず劣らずのRICO信者たちは、ポジティブな印象の言葉をこれでもかとコメントに書き込んでいた。

 『リノベーションですね!DIYすてきー!』
 『県を跨いだんですか?さすがRICOさん、自由だなあ。かっこいいです』
 『良いなあ、私も実家に帰りたーい』

 画面をスクロールする指が止まった。
 みゅうの心臓が一回大きく跳ね上がり、続いて喜びとも安堵ともつかぬ感情が背筋を駆けあがった。それは例えるならば、レモンシャーベットの甘酸っぱさを内包した無数のシャボン玉が、一気に弾け飛んだような感覚だった。

 『RICOです!みなさんコメントありがとうございます。
  びっくりしたでしょう?私もびっくり、今でもちょっと信じられないくらい。
  詳しい場所は教えられないけれど、ここは東京なんです。
  東京にもこんな場所があるんだよ!今まで住んでたマンションより広いし、御庭もあるし、これまで以上に素敵な【おしろ】をみなさんにお見せします。楽しみにしててね』

 「すごい!……やっぱり、RICOさんスゴいよおぉぉぉぉ!」


 数日後、みゅうの部屋には新しい段ボール箱や重量感のある包みが運び込まれた。

 元からある荷物は解かず、新しい荷物から開けていく。
 出てきたのは無垢の木材や使ったこともないプロ用の工具だった。
 使いこなせるかどうかは問題ではない。りこがアップしていく写真やコメントを頼りにともかくも取り寄せてみて、触って、動かしてみて、自分なりの理想の城をコツコツと作り上げていくのだ。
 「私も、ここで、実家のことなんか忘れるくらいに、素敵なお姫様に、なるんだから!」



 ――一体何度目だ?今度は何を始めやがった。
 勝手気ままなDIYを始めたみゅうの部屋を、苦々しく見上げる者がひとり。
 彼女が以前ボヤを出した時に第一通報者になった、隣の部屋の住人である。

 感染症騒ぎでそれまでのアルバイトが出来なくなった彼は、デリバリーサービスの配達員として糊口をしのぎつつ、趣味のギター演奏に時間を多く割くようになっていた。
 物は試しと演奏音源を動画サイトに出してみたら、中々の評判を呼び、今では週に一回の演奏投稿が彼のメンタルに多大な潤いをもたらしていた。
 その日はデリバリーを終えたのちに録音作業をしようと、逸る気持ちを抑えるのももどかしく帰宅したのだが……隣室の女子大生がまた何やら始めたらしい。電動のこぎりか、はたまたインパクトドライバーか、ドア越しに気合いの入った工具の作動音が聞こえてくる。
 あの調子では、壁伝いに作業音が相応の迷惑な振動と共に、近隣の部屋に伝わりまくっているに違いない。
 「なんなんだよもう。あんなんじゃ録音できねーじゃん」
 彼は駐輪場に自転車を止めると、通路にモップ掛けしている作業服姿の初老の女性に挨拶した。
 「おつかれーっす」
 「おや、今日は早いね。おかえり」
 「アレ。今度はなんなんすか。火を出した次は俺んちの壁をぶち抜くつもりなんすかね」
 女性――マンションのオーナーは、やれやれといった風に首を振ると、そんなことはさせやしないよ。と言った。
 「原状回復って言葉を教えてやったからね。一応、菓子折り持ってアタシんところに事前の挨拶に来る気遣いはできるみたいだから、その辺のヘマはやらないんじゃないかい?」
 「えー……いいんすか、そんなんで」
 「この前のボヤの後処理も中途半端だったしね。その修繕も含めて、自分でやるってんだからいいじゃないか。やれるもんなら、やってみなってんだ。もし万が一、アンタんとこと一部屋続きになったら、そん時はたっぷり絞りとってやればいい。どっちにしてもアタシの懐は痛まないんだ。いいの、いいの」


【第六回】に続く


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 それでは。
 最後までお読みいただいて、感謝感激アメアラレ♪
 次回をお楽しみにね、バイバイ~(ΦωΦ)ノシシ


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虎徹書林店主あらたま
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