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ストレンヂア鑑賞

 「ストレンヂア 無皇刃譚」を視聴。戦乱の時代、自ら剣を封じて名を捨てた浪人「名無し」と、剣客として仕えながらも強者との戦いを貪欲に求める「羅狼」。そしてとある事情から追われる身となっている少年「仔太郎」を中心に物語は展開していく。
 映画自体をちゃんと観るのは多分2回目。ラストの名無しと羅狼の戦いが好きすぎてそのシーンだけはサブスクで何度も見ていたけど、やっぱりちゃんと最初から最後まで見たくてブルーレイを購入。観ていて途中で気づいたけど作中の季節も冬で、雪が降っていて今日の天気とリンクしていて観るのには最高のシチュエーションだった。
 そしてやっぱり中身も最高だった。王道のストーリー展開だけど、最初はお互い反目しあっていた名無しと仔太郎が旅をしていく中で徐々にお互いを認めていき、仲を深めていく過程が丁寧に描かれていて尊い。仔太郎の連れている犬の「飛丸」が2人の仲を繋ぐ上で重要なキャラクターで、最初の出会いからして飛丸だけは名無しの人間性を見抜いていて名無しに食料を分けたり、名無しを庇ったりしていて、その忠犬っぷりも尊い。ストーリーは決して明るいものではないし不穏なシーンも挟まれるんだけれど、道中で名無しが仔太郎に馬の乗り方を教えたり連れションしたりするほのぼのとしたシーンも随所で出てくる。シリアスな状況ではあるんだけど、仔太郎も年相応の幼さを見せてはしゃいでたり、名無しも仔太郎のそんな様子を見て少しずつ心を許して笑顔を見せてたりと、二人が少しずつ歩み寄っていってる様子が美しい背景と共に描かれているのは観ていて微笑ましくなる。降る雪も川の流れも海もどれもがリアリティがあって美しい。ストーリーはさっきも書いた通り明るい話ではなくて、季節も冬の設定だから全体的に寒々しい雰囲気があってどことなく寂しげに感じられるんだけれどその空気感とBGMが絶妙にマッチしている。BGMといえば随所でメインBGMをアレンジしたものが流れるんだけれどこれもやっぱり壮大かつ寂しげな印象を受けるもので、世界観にピッタリ。一時期作業用BGMとして聴いてたくらい好き。そしてキャラクターも勿論魅力的。名無しがとにかくカッコいい。飄々としてるけど締めるところはきちんと締めるキャラが個人的には大好きなので名無しはどストライク。第一印象は冷淡な印象を受けるかもだけど、旅が進めば人間味あるところも小出しにしてくるし、表には出さないけど暗い過去を持っていて影があるところもポイントが高い。終盤に己の過去と改めて向き合って仔太郎を助けに行くシーンは胸が熱くなる。
 だけどやっぱりこの作品の一番の肝はアクションシーンだと思う。冒頭から派手なアクションから始まってバタバタと人は死ぬし、血は吹き出るし、残酷な描写は多くて「この作品の世界観はこんな感じですよ」ということをのっけから観客に教えてくれる。名無しや羅狼をはじめとするキャラクター一人ひとりにさまざまなバックボーンがありそうなんだけれど、そこについての説明はあんまりされなくて、観客が脳内で補完をしていく仕組み。でも面白いのは「なるほど、このキャラにはきっとこんな想いがあって…」なんてキャラの背景を推測するとあっけなくそのキャラが死んでしまうこともザラで戦国乱世の世界観を忠実に表現しているのだと思う。監督も「刀を振るえば人は死ぬ」って言っていたそうだし、そういう意味ではアクションシーンは観ていて油断が出来ない。で、そのアクションの中身もめっちゃくちゃ濃い。息遣いだったり体捌きだったりがこれもまた丁寧に描かれていて、なおかつスピード感もあって息をつく暇が無い。一番の見せ場はやっぱり最後の名無し対羅狼の勝負なんだけれど、ここも本当に凄い。まず最初に相対していざこれから切り結ぶって時にいきなり剣と刀をぶつけるんじゃなくて、名無しは冷えた手を暖めるために、油断なく相手の姿を観察しながら火の近くに寄っていったり、手を暖めたら柄を握り直して感触を確かめるカットが入っていったりと描写が非常に細かい。BGMの高まりと共に切り結ぶ二人。剣と刀がぶつかり合い、鍔迫り合って飛ぶ火花。一旦距離を置いて息を整える時の息遣い。刃文に息がかかって一瞬白く染まる。二人の表情もめちゃくちゃリアルに描かれているし、一瞬たりとも目は離せない。この戦いが本当の本当に好きでここだけは何十回も見た気がする。
 そしてラストシーン。その後どうなったかは観客の解釈に委ねる、と監督は話していたらしいけど多分あれは…という答えは割と自分の中では出ている。名無しを乗せて馬を駆ける仔太郎の表情が全てな気がする。明るい顔から一瞬寂しげな表情を浮かべた後、凛々しい顔つきで前を見据える。仔太郎最大の見せ場。個人的には良い終わり方だったと思う。ストレンヂア、良い映画でした。


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