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崇高な戦い 24分間の激闘

゛日本人柔道史上初、ワンマッチによるオリンピック代表決定戦 ゛

「オリンピックで金メダルを取るよりも過酷」と言われたこの試合。注目していたのは、柔道関係者だけではないはず。

日本屈指の柔道家二人による、たった一つのオリンピック代表枠を決める一発勝負。その戦いは、周りが予想した以上の熱戦、いや、激戦となった。

その激戦の真実を阿部一二三選手、丸山城志郎選手、双方のインタビューから作られたドキュメンタリー。二人の試合当時の心情に迫った緊張感あるインタビュー。

コロナウイルスの影響で、オリンピック代表選考に係る公式戦が行われない。唯一、代表が決まっていない男子キロ66級代表。そんな中、決まった代表決定戦、「日本柔道史上初、ワンマッチによるオリンピック代表決定戦」

阿部選手の心情

いつになるのか分からないというのがきつい。どこに照準を合わせて練習をしていいのかがわからない。そんな中、オリンピック代表決定戦という一発勝負が決まる。

いつもは、4,5試合してからの決勝だが、その日、ただ一試合を想定しての取り組み。本番の試合時間に合わせ夕方に練習し、練習開始からパワーのある相手と練習をし、一発勝負に合わせる。 丸山の生命線、左手を自由にさせないため、左組手の選手と練習を繰り返す。丸山選手得意の捨て身技に、重心を低く保ち対処するトレーニング。

変わったことをするのではなく、今までやってきたことを突き詰め、やるべきことをやる。自分の「前に出る柔道」を続ける。さらに進化した「前に出る柔道」を見せる。

丸山選手の心情

釣り手と引き手を持って、美しい技で相手を仕留める柔道を特徴とする。柔道を知らない人が見ても、綺麗な柔道と言われるような魅力のある柔道を目指す。

練習場である天理大学の穴井隆将監督、オリンピック金メダリストの大野将平選手、周りの支援を受け、自分の柔道を突き詰める。

正しく組んで一本を取る、正々堂々と戦って一本を取る。自分らしく、美しく、自分の柔道を見せて勝つ。「美しい柔道」を目指す。

対照的な柔道、同調する二人

お互いにいつも相手が頭によぎるという、不思議な関係。誰にもわからない二人だけの関係。柔道の形はことなるが、目指す先が同じ二人。

これまでの試合にない、異様な清寂の中で、二人が試合へ向かう。ファーストコンタクトが重要。そこで自分が行けるのか、行けないのかが肌感覚でわかる。

最初に、丸山が肩車を出してきた。技がかかりかけたが、阿部は動揺せず、むしろ「大丈夫」と思ったという。阿部は丸山の左手を徹底的に封じて、先手先手に技を繰り出していく。

試合時間の4分では決着がつかず、延長戦へ。先にポイントを獲ったものが、勝者となる。

延長に入り、丸山はどんどん攻めていく。丸山は巴投げが得意。相手がそれを警戒して、腰を引いた瞬間、そこからの変則肩車を狙う。阿部は我慢し続ける。

決着のとき

丸山選手が押し始め、流れが来そうだった瞬間、阿部選手の目が切れ、治療のため、試合が中断。

せっかく今、自分に流れが来そうだったのに、え?今?

丸山選手の心が、ほんの少しぶれた瞬間。

阿部選手は不思議にも、治療中に、もうすぐ試合が決まりそうな予感がしていた。

24分に及んだ死闘。リスクを取り、相手と組みに行き、前へ突き進んだ阿部選手が、丸山選手を倒した。

試合終了後、丸山選手は大野将平選手から抱きしめられ、「よくやった。お前の柔道が一番や」。

世界最強と言われている柔道家から、そんな言葉をもらった。

決闘とも言える試合

ここまで自分を追い込んだことがある人間にしかわからない世界。凡人には感じることができない昇華された崇高な戦い。

冒頭のインタビュアーの言葉が、最後に胸に残る。「見ているものができることは、讃えるだけ」

※フジテレビ「村上信五∞情熱の鼓動」より


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