FOOT×BRAIN 中田英寿の言葉
番組10周年を迎えて、この番組の初回ゲストの中田英寿さんが出演。
29歳という油がのった時期にサッカー選手を引退し、現在、日本酒に関わる会社を経営している。中田英寿さんに興味を持つ人は多いのではないだろうか。
なぜ、早く引退したのか。
まず、何故引退したのか。1998年のW杯は楽しかった。でも、2002年、2006年は、まだ2回目の出場なのに、日本開催となり運営側に回り、責任やプレッシャーが大きかった。もう楽しいと感じられず、サッカーをやる必要を感じなくなった。
ただ、中田さんにとっては、サッカー選手でも、日本酒の会社でも、自分がやっていることは同じ。問題があって、どうやって解決したら面白くなるのか、それをただ繰り返すだけ。人間がやることは、どこにいても同じ。
人生において大事なことは、”楽しい”ということ
楽しいものを追い続けることが大事。そのためには、楽しいことをやり続ける環境が必要。自分がどうあれば一番幸せか。楽しいというのは、ゴールが大事ではなくてその過程。そこで幸せを感じる。”楽しい”ということは好きなことをやれる環境である。
どうやって最大のパフォーマンスはできるのか。相手を分析してどうやってできるか。ただ決めるだけではなく、いかに美しく自分の形にできるか。
サッカーと全く同じ事を、会社でやっている。他の人の考えない、「えっ」というようなことを起こさないとつまらない。自分ならではのエッセンスがないと自分がやる意味がない。
中田さんは、自分の目標と、そこに必要なものが何か、自分ができることは何かということを、明確に自分の言葉で表現できる。
伝統産業に携わる
中田さんは世界を旅して、日本の素晴らしさに気が付いた。伝統産業は、原材料を自然から取って使う。自然には素晴らしさもあるが、恐ろしさもある。地震や津波など自然災害があり、それらを全て受け入れながら日々の生活をしていく彼らの強さ。親がやっているから逃げられず、自分がやらなければならない覚悟の強さ。
それらを目の当たりにし、人間として彼らに惚れた。こういう人たちと一緒に仕事をしたい。彼らの問題解決を一緒にしながら、素晴らしいものを世界に出していきたい。それが、日本酒や伝統産業に携わる思い。
情報がないだけで衰退してしまうものがある
中田さんが子供の頃は、サッカーに関する情報はなかった。情報があるから、今の子達はワールドカップでやって当たり前、ヨーロッパでやって当たり前という時代になった。情報がなければ、それを知らない別の世界で終わってしまう。
伝統産業は長く続いている分、知られていないことがいっぱいある。そこをどうにか変えていきたい。素晴らしい文化があるのに情報がないということだけで衰退してしまう。そこを変えていきたい。
サッカーについて
相手の裏を取ることがすごく好きだったと言う中学時代。中学時代に開花した中田さんの才能。みんなが驚くようなプレーをしたかった。
逆を向いてキックを蹴って、皆が「えっ?」と思ったら、味方が裏に走っているとか。そのためには技術が必要だし、相手の裏を見るためには全体を見てなきゃいけない。自分が楽しむために、必要なピースを埋めていく練習をした。
試合に出るために点を取りに行った
技術があるから一番になれるわけでもなく、技術があるから結果が出るわけでもない。いくら良いパスを出しても、点を取ってくれなきゃ意味がない。
「点を取らない・結果に結びつかない = 監督は外す」。だから、イタリア1年目は点を取りに行った。”点を取らないと認めない”という風潮が、イタリアにはすごくあった。中田さんは、試合に出るために何が必要なのか、よく知っていた。
サッカーから環境が変わることへの迷いや不安はなかったのか
違う環境というのは、21歳でイタリアに行ったことと同じ。これまでの自分の常識が通用しない。でも、通じる部分もある。これまで学んでいたことは、他の分野でも生きる。若い頃からそういうことをやってきたので怖くはない。
サッカーに携わる可能性
今の若い選手達は、サッカーの技術はあるけれども、サッカーは技術の見せ合いではない。技術の使い方を知らないと、良い結果は出ない。ずっと考えながらやってきたから、色々と教えられることはあるかもしれない。なので、サッカーに携わる可能性はゼロではない。
日本サッカーが強くなるには
10年前、番組初回時;
自分たちのサッカーを作り上げていく。今はもう、そこの段階に入っている。自分たちのオリジナリティをどう作っていくか。今後、数年の大きな命題である。
10年後、現在の回答;
日本がこれから上に行くには、サッカー自体を上手くなるしかない。サッカーは技術ではない。相手との駆け引きである。技術はある・スピードはある・体力はある、でも、サッカーが上手いとは限らない。
ペースは作るものである。環境やリズム、全てを自分で作るということを、もっと小さい頃から教えて行かないといけない。
テクノロジーが発達して、個人個人のプレーが100%解析できるようになってしまうが、頭の中は100%解析できない。思考のレベルを高くしていくことは非常に大事。技術も体力も、どう使うかを考えないといけない。自分が技術や体力を持っていなかった人間だからこそ、そう思う。
W杯について
フランスW杯で、アルゼンチンと結果は1点差だったが、これは大きな1点。これだけ長いW杯の歴史で、まだ優勝している国が数少ないというのはそういうこと。とても重みのある言葉だった。
魅了された中田英寿の言葉
自分が生きるために何が必要なのか、自分を活かせることは何なのか、物事の本質や自分のことを客観的に見ることができる。それを深く考え、選択することができる。そんな力を中田さんのインタビューに見た。
自分の選択を、自分の言葉で明確に説明することができる。現役のときから、中田さんの言葉の重みを感じ、彼の言葉を聞きたい、それが日本サッカーの行き先を示しているのではと思った。2週に渡った放送を通じ、彼に再びサッカーに携わってほしいという思いが強くなった。
中田さんがボールを持つと、次は何をするのかとワクワクさせられ、そんなプレーに魅了された。サッカーを離れても、そこには同じ魅力を持ったままの、同じプレースタイルの中田英寿がいた。