アンサー小説。
という概念にトライしてみました。
アンサー元
10月7日
今日は新しい煙草が買えた。幸せだ。フィルムに包まれた真新しい箱。折れも無ければシワ一つ無い。中にはきっちり二十本の煙草。気が楽になった。
11月4日
本麒麟の500㎖缶を買ってしまった。灯油代として残しておいた金に手をつけた後悔。飲むタイミングにだけ気をつけよう。誕生日に誕生日に、
12月28日
恥を偲んで炊き出しに並んだ。雑炊だった。子どもの頃を思い出して、不覚にも食べながら泣いてしまった。この部屋には戻りたくなかった。公園にいた方が暖かい。吹きさらしの寒空でも
・・・いよいよか。
広告の紙片に書き散らかした「生きた証」をぼんやりと眺めながら、「その時」が来るのを静かに待っていた。
思えば、報われない人生だった。戦後すぐにそれなりの有名大学を卒業したものの、めくるめく駆け上がる日本社会の新しい流れには決してついてはいけなかった。
今も昔も、口下手で不器用な人間は、道をちょっと外れるとそのまま戻ってはこれない。流れに上手く乗っている者たちを羨みながら、気づいたら「生きた証」はこの部屋にあるもののみとなっていた。
もうすぐ俺は朽ち果てる。そして、俺やこの部屋にある物は、、たしか何て言ったかな。
特殊清掃人とか言ったような気がする。そいつに片付けられて、終わりだ。
こんな俺や部屋を片付けてくれるなんて、よく出来たやつだな、と思う。
もうこんなザマだから、何も俺から出してやれなくて申し訳ないが。
「チャッチャってやってくれや。」
そして、俺の「生きた証」を見て、こんなやつも居たんだな、と思ってくれれば、それでもう充分だ。
もう、充分生きた。
贅沢を言わせてもらえば、この「生きた証」を老人ホームに転がり込むことが出来た弟にでも届けてくれれば、もう最高だ。
あいつ、元気でやってるかな。まぁ、それも、もうどうでもいいか。
もう、充分生きた。