
【自作解説】熾火を守りながら
SF合同に寄稿した『熾火を守りながら』の自作解説記事です。
雑記のような形で、コンセプトとか作中内の小ネタをポロポロ書いていきます。
記事の目的上、本編のネタバレが多数含まれますのでご注意ください。
またいくつか誤字・脱字がございましたので、巻末に訂正表を付記いたしました。
不手際の多い小説となったことをお詫び申し上げます。
読み飛ばしてもいいイントロ
あとがきにも書きましたが、考えているうちに「現実から飛躍してるブルアカ世界でSFをやる」って行為がどういう物なのかわからなくなってきたので、その点の整理から企画をスタートしました。
【コンセプト】
まず自分にとっての魅力的なSFってなんだろ? という部分を言語化し、自分なりに定義してみました。多分、下記のようになります。
SFとは、一つの嘘(目的を達成するための仮説)を起点にしてどこまで飛べるかを競うゲームである
すなわち、現実世界(二次創作の場合は原作)に対して一つだけ変数(if)を混ぜ、その状態において世界がどう動いてくのかシミュレーションしていく思考実験、みたいに言うことができるのではないかと思います。Scienceを科学的な思考法 = 仮説検証のサイクルとして解釈した形ですね。「あんなこといいな、できたらいいな」をスタートにしてお話を膨らませていく、みたいなイメージ。
その上で、どこに重点を置くか(どこまで遠くに飛べるのかとか、どれだけ変な飛び方をできるかとか)といった部分が個々人ごとに異なるSFとの付き合い方になってくるのだと思います。じゃあポリメレースはどんな飛び方をしたいのさ、って話なんですが、これはかなり明確で、
「とにかく綺麗に飛びたい」
というのが目標でした。
その原作の二次創作である必然性や、現実にある科学的な解釈との整合性が(ある程度)取れている作品。これを目指したい。
そういった目標から逆算し、話の方向性はブルアカ内においてもSF的テクスト土壌が比較的な豊沃なメタ方面に持っていくことを決めました。さらにテーマとしては、最終編で取り扱われていた「解釈」にまつわることをメインに据え、そこに情報科学をほんの少しと、科学を突き詰めていくとかならずぶち当たる決定論のお話を添えることにした、というのが今回の流れです。
【狙い】
ブルアカであんまり読んだことのない小説を目指しました。センスオブワンダー!って感じの。
話の構成がああいった進行なのは、ただの趣味です。巨視的な視点によって描かれる物語と微視的な視点によって描かれる物語が交わりそうで交わらないまま進んでいき、最後には「あー、こういう感じのこと言いたいのね?」とわかるような形で隣接する小説が好きだからです。具体的な例を挙げると、円城塔氏による『Your heads only』や『道化師の蝶』などでしょうか。視点が上に下に振り回されてるうちに生じる現実からの浮遊感と、終盤に向かうにつれ混乱が収束していく気持ちよさ(センスオブワンダー)が好きです。
メインキャラクターを七神リンに据えたのは、彼女が「不在中の元首代理を務める議員」と「友人を亡くした個人」の間で揺れる存在だからです。大きな物語と小さな物語の間を行きつ戻りつする本作品のナビゲーターとして最適だと考えました。
……という大義名分もありつつ、やっぱり一番大きな理由は「キャラクターが好きだから」です。
昔から、不釣り合いな役割を負ってしまったばかりにどうしようもなく疲弊していくキャラクターが男女の別なく好きです。なんででしょうね、人生と似ているからでしょうか。いつまでも『少女に与えられたのは、大きな銃と小さな幸せ』でキャッキャする精神で生きてます。
【参照作品】
物語の下敷きとなった作品について。
「章ごとに情報がザッピングされる小説」という意味で、構成面では先述の『Your Heads Only』と『道化師の蝶』から直接的な影響を受けています。またプロットを切っているうちに要素がほぼなくなってしまいましたが、押井守の『イノセンス』も一部モチーフとして残っているかと。こちらについての詳しい説明は、また後で書きます。
多層構造的なメタについてはアニメ『ヘボット!』からの影響が強いと思います。
これは、物語を成すレイヤーが、
① 素朴に物語を演じるキャラクター
② 物語を内側から俯瞰して観測する存在 (メタキャラ)
③ 作品の外側から物語へ介入する存在 (バンダイナムコ=作者)
の三層に分かれ、それらを明確に区別しないままゴチャッと物語を進行させるカオス感的な部分で言ってます。
ブルアカに通ずる部分があって好きなんですよね、ヘボット。和製ワイドスクリーン・バロックの傑作なので、グレンラガンとかシュガーラッシュとかLEGOムービーとかブルアカのゲマトリア周りが好きな方はぜひご覧になってみてください。50話近くある上に話が不条理ギャグの形をとっているのでとっつきづらいかもしれませんが……
シンペロとかでやっているイメージプレイリストですが、今回はかなり突貫で書いたため用意する時間がありませんでした。まあ誰が聞いてるねん、って感じなのでいいんですが。
一応、執筆中によく聞いていた曲は宇多田ヒカルと椎名林檎の『二時間だけのバカンス』です。SCIENCE FICTION!
生徒会長とリンの関係性あたりに影響は出ているかもしれません。
本作品における『可能性の収束』について
ここからは作中内における諸々の設定の解説に移ります。
まずニセ生徒会長とクラフトチェンバーによる『可能性の収束』に関する説明なのですが、すみません、ここはすこし煩雑なのでまた後ほど追記します。
簡単に説明すると、「統合制御パッケージによる『ストーリーの自動生成機能』と、クラフトチェンバーによる『可能性を収束させる機能』が噛み合った結果、ゲーム内における乱数がすべて固定値になってしまった」くらいのことです。RiJ的な。
ゲームの外から見たらそれくらいのことなんだけど、ゲーム内に住む生徒たちにとってはたまった物ではなく、それがあたかも決定論的な宇宙へ転回してしまったかのように見えた、という風なネタです。
この部分がわかりにくくなったことについては、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです……。ゲームの内部から観測した事象と、外部からのメタ的な説明がごっちゃになったまま進行したためだと思います。
すみませんでした。
各論的小ネタ解説
作品内の小ネタ集解説です。
【0】
冒頭のイメージについて
こういうの好きがち。
Only in my headと被るけど、まあいいかーと思いながら入れた。
【1】
朝と晩の一日二回クラフトチェンバーを回す
筆者はこんな真面目にやっていない。
基本的には、贈り物が不足した段になりようやく焦ったように回し始める。家具とか粗大ゴミとか〜素材に〜
こっちはちょいちょいやる。
実はキーストーンがどこで手に入るのかもあんまり把握していない。いつの間にか増えたり減ったりしてる。
ぜんぜんわからない 俺たちは雰囲気でブルーアーカイブをやっている。スイーパー型ボットが〜
自分の存在を知らせるためにニセ生徒会長が製造させた。アリウスの子たちに渡すBDが〜
筆者はトリニティが不足しがち。
ブルアカゲーム内だと、『SRTは廃校以降、ヴァルキューレの教材で教育を受けている』という設定がゲーム内の強化素材ともリンクしているのが個人的な性癖。
【2】
セレクトボタンひとつでなんでもできちゃう要領で〜
読み直してて「ファミコンじゃなくてゲームボーイだな」と気づいた。再掲する際には改訂するかもしれません。
セレクトバグ、もしくはセレクトBBバグとも。後々に出てくる生徒会長憑依バグへの伏線。
似たようなネタとして、「ブルアカ世界に何故か突然宇宙海兵隊が現れ、ゲヘナ生を攻撃し始める」という描写を入れるか一瞬迷ったが、辞めた。進化や化学反応、ニューラルネットワークの形成と〜
本作品を書くにあたり軽くニューラルネットワークの仕組みについて調べてみたのだけど、学習過程の概要図がセフィロト図と似ていることに気づいてちょっと興奮した。そのまま何かに絡めて作中へ実装したかったものの、デカグラマトンにも言及する必要が出てくるため、煩雑だと判断して辞めた。
クラフトチェンバーによる『ノードの選択』と、ニューラルネットワークにおける『ノードの重み付け』を重ねたやつ。そこから発展して、先生が別世界線の記憶を辿る際にクラフトチャンバーと酷似した空間を経由すること、最終編の赤い空(ガフの扉みたいなやつ)にクラフトチェンバーのような模様が付いていること、クラフトチェンバーで『色彩』が出現することと絡め、チェンバーの機能を『観測された可能性を能動的に選択し、揺らぎをある程度収束できる物』として勝手に定義した。
今後本編でも種明かしされて欲しいけど、そこらへんもボカしたまま終わるのかなぁ……。
【3】
俗称は『ブルーアーカイブ』で通っている。
バベルの図書館ネタ。バベルの図書館の中にはバベルの図書館の目録がある、ってやつ。
ブルーアーカイブ内に収まるブルーアーカイブの全てのデータを収めた構造体なので、それはもはやブルーアーカイブでしょう。って感じ。Scented garden
世界三大性典から。
このデータ群が必ず消されるのは後々の『世界からの修正』への伏線。「あけ○○○とよろ」と同じ処理が行われている。ウーマンコミュニケーションかよ。
キヴォトスは自由な都市だが、その自由には、落ちる林檎によって示唆された重力の如き制限が働いている。
【4】
KNOXS
某ソフトウェアのメタファー。筆者は使っていない。
作中内データ構造へ直接干渉できるのもそういうこと。後にリンが探偵役を務めることから、ノックスの十戒との掛け言葉にもなっている。
【5】
チェンバー内の空間について
ノベルゲームにおける「一枚絵=スチル」なので、ニセ生徒会長がいる空間は撮影スタジオのようになっており、電車内はセット、外はグリーンバック、窓の外の景色はLEDスクリーンが映している……、という設定にしていた。小説内のどこかで披露したかったが、余白がなかった。私を消す方法
イルカがせめてきたぞっ
外側にいるアロナは過酷なメンテナンスに勤しんでいる。次世代型統合制御パッケージ
こちらの記事を読む限り、ブルアカがこう言ったAIを実装するのはまだまだ先かなと思いつつ。
作中内でのイメージでは、現在運営が行っている業務の大部分を肩代わりするゲームマスターAI、くらいのイメージ。今回はその中の物語自動生成機能が暴走したってお話。先生の朝食。の残骸の方
シリアルのパッケージだから。エクスペリメンツの方ではない。
エヴエヴのベーグル、銀河ヒッチハイクガイドの42、ゴドーを待ちながらのゴドーみたいな、些細なマクガフィンがその物語における真理を司っている、みたいなのが好き。
ちなみに先生の朝食が原因でゲームが壊れたのは、彼が唯一ゲーム内のオブジェクトへ接触権を持っている存在だから。名探偵津田における、1の世界と2の世界を同時に知覚できる津田のような存在だから。
世界の命運は、救われるにせよ滅びるにせよ、常に勇者によってのみ左右されるのだ。放っておくと無限に連想ゲームを続けそうな彼女の話を、
ハルシネーション、あるいは松本人志現象のこと。
ここでの彼女の説明も正確なものではない。作中での出来事をゲーム内での理屈で整合性をつけようとした結果、バグった。みたいに捉えてもらえれば。
【6】
最後のイメージについて
こういうの好きがち。
書いてみて
もうちょっと上手くやれたんじゃないか、と思います。小説を書き終わった後は常に。
特に2、5あたりの情景描写をもうちょっと入れたかった。いずれ加筆したいです。
あと余談というか裏話なのですが、本小説は執筆前はもう少し違う形でプロットを切っていました。その内容は、
学園を卒業し、キヴォトスを去った七神リン。
彼女は外の世界で「先生」となっていた。
そんな彼女の元に、一つの知らせが入る。
「キヴォトス連続失踪事件」
とある時期から、生徒の失踪事件が多発しているというのだ。
事件を調査するべくキヴォトスへ再び足を入れる七神リン。
同じく「先生」となっていた不知火カヤ、そして今や退職した先生の遺した調査書類の協力を得つつ、彼女は事件の真相に迫っていく。
そしてそれは、彼女が唯一遺していった後悔と繋がっていた──。
って感じ。大枠は今のシナリオとそんな変わっていません。黒幕も統合制御パッケージ+生徒会長のスチルでしたし。唯一違うのは、大オチに「リンはキヴォトスへの潜入用アバターとしてNPCキャラを用いており、今までの言動も全て犬の格好で行なっていた」というネタを用意していたくらいです。結構気に入っていたアイデアでした。イノセンスがモチーフに入っていると書いたのも、ここらへんの尻尾が残っている感じです。
このプロットを廃棄した理由ですが、これはテーマがちょっと不味かったことに由来しています。この作品の裏テーマが、実は「途中で卒業したソーシャルゲームと、プレイヤーの関係性について」でした。
直近でまあ、色々、ありましたので。お蔵入りした形になります。
これを真っ向からネタにしていた成未先生はすごいと思う。
最後に謝辞で締めようと思います。
まず、しっぽ焼き先生。
この952ページの狂気に近いSF合同をまとめ上げてくださり大変ありがとうございました。ブルアカで全力のSFを書き上げることができる機会が巡ってくるとは夢にも思っておらず、それゆえ本当に楽しかったです。
そして本書を手に取り、美しいながらも激しい荒波の如き638ページに渉る小説群を乗り越え、とても読みにくいであろう拙作を拝読していただいた上にこんなブログまで足を運んでくださった読者の皆様方へ。
本当にありがとうございます! また次の機会があれば、その時もぜひよろしくお願いいたします!
あとついでに拙作『シン・ペロロ』シリーズも!!! どうぞご贔屓にお願いいたします! こっちよりはもうちょっと読みやすいと思いますので!!!
以上、宣伝でした。それでは、また夏コミでお会いできることを楽しみにしております。
付録:訂正表
誤字がいくつかあったため、この場で訂正いたします。

申し訳ございませんでした。