🇸🇰リーディア・マホヴァー:スロヴァキアの多言語のプロに学ぶ多言語学習術
ヨーロッパにはいくつか多言語話者を対象とした祭典があるが、そのような多言語話者向けのイベントにはいくつかの共通した傾向がある:
1.多言語話者(+言語オタ)へのコミュニティーの提供
2.新しい言語へのアクセス
3.多言語・複言語・言語共生社会への貢献
そのようなイベントの一つとして「ポリグロット・ギャザリング」があげられる。中国の言語学習アプリ"Hello!Talk"やオランダに本拠地を構える「世界エスペラント協会」などがスポンサーとして名前を連ねている。
そのイベントによく登壇するのが、スロバキアのリーディア・マホヴァー(Lýdia Machová)さんだ。
リーディアさんについて
ブラチスラヴァで開催された二〇一七年や二〇一八年にはポリグロット・ギャザリングのヘッドオルガナイザーも務めた。
以前紹介したアメリカのティム・ドナーさんもそうだったが、ポリグロットとしてTED Talkに彼女も出演し、その「言語への愛」を語っている。「単純に言葉が好きだ」と彼女は言う。
https://jazykovymentoring.sk/lydia-machova/
さて、彼女はどのような言語を喋れるのだろうか。彼女のサイトによれば九言語をある程度のレベルで使いこなすことができるようだ。もっと細かく見ると、母語のスロヴァキア語、英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、ポーランド語、エスペラント語、ロシア語、スワヒリ語である。そしておそらくスロバキア語の話者であればチェコ語も理解できると思うので、十言語は大丈夫だと見ていいだろう。スロヴァキア手話もできるらしい。その能力を活かして、彼女は「ランゲージ・モニタリング」としてスロヴァキア語やチェコ語の話者を中心に言葉の勉強方法について教育や啓蒙活動をしている。つまり、彼女自身は特定の言語を教える先生ではなく、言葉を勉強するための方法について教える先生、と言うことである。
リーディアの原則
TED Talkでのスピーチによると彼女の語学学習法には重要な四つの原則がある。
1.楽しむこと(Enjoyment)
彼女自身はポリグロット達との出会いによって「天才なんていない」「ショートカットなんてない」ということに気づいたと言う。彼女は:
単純に私たち(ポリグロット)は語学を学校の退屈な科目から毎日できる楽しいことに変えられる方法を見つけ出しただけなんです。
と断言する。
2.学習方法を工夫すること(Method)
自分に合った方法が見つけられないと言語学習は効果的ではない。
書くのが嫌ならアプリにタイプする方法に変えればいいし、音声教材が退屈なら何語でもいいから面白いYouTubeやポッドキャストを見つければいいじゃない。教内向的な人だったら、自分の隣にネイティブがいるようにイメージして自分に話しかけることもいい。
3.語学勉強の時間を作り上げること(System)
現代社会では言葉を勉強する時間すら見つけることが難しくなってきた。それなら逆に勉強する時間を作り出す工夫と努力が必要だ。
リーディアさんは一五分早く起きれば外国語のポッドキャストを聴く時間が作れるし、また彼女は火曜日と木曜日は友達と二〇分間友達と外国語でおしゃべりすることにしているそうだ。朝食中はYoutubeで外国語に関するチャンネルを見ることにしている。
それが日課になればわざわざ語学勉強の時間を作り出す必要なんてありません。
4.我慢すること(Patience)
「二ヶ月で言葉がペラペラになるわけありません」と彼女は言う。言葉の勉強には歳月が必要で、二ヶ月で喋れるようにはならないけれども二ヶ月で目に見える進歩が出てくるはずだと主張する。
リーディアの勉強風景
スロヴァキアのTVNovinyに出演したときの動画がyoutubeにアップロードされている。
動画の中で彼女自身が懸命に言葉を勉強している様子を見ることができるが、皆さんはどう思われるか。
朝ごはんを準備しながら、勉強している言葉のポッドキャストを聞いたり、言葉を即時翻訳してみたり、会話で出てきた新しい単語を反復して覚えさせたりとかなり徹底しているように見える。
彼女が動画で言うには週二回の語学コースに通うより、毎日十五〜二十分程度の勉強をする方が効果があると言う。しかしながら、注目すべきことはTED Talkでも言及された上記の一番"Enjoy"が徹底されていると言うことである。言葉を楽しむことにより、彼女の語学勉強は「勉強」と言う日常から切り離された時間ではなく、「日常」の一部になっているのだ。
ドイツ語のSprachheldというyoutubeチャンネルのインタビューで彼女は「語学学校に行きテキストを渡される勉強なんて全くつまらない」と言う。言葉は楽しむもの(gnießen)で、リーディアさんの場合は語学テキストではなく例えばハリー・ポッターのスペイン語版を読むらしい。徹頭徹尾、リーディアさんは言葉を勉強するのではなく、楽しむと言うことに語学の秘訣を感じている。
一番語学が上達する人とは?
実は私の知りうる限りでもいわゆる「語学」を独立した、特殊な時間や枠組みとして考えているポリグロットはいない。みんなそれぞれの方法で語学を楽しみ、膨大な時間をかけて多言語話者になる凡人だ。
一番早く語学が上達する人はもしかすると勉強ということを忘れて、語学を楽しみに変えられる人なのかもしれない。
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