二人の男。

神様、仏様、あぁ一体この始末をわたくしにどうつけよと仰せなのでしょう。

来る来週の土曜日、そして次の日曜日。心から敬愛する殿方お二人とそれぞれに逢瀬の約束がございます。両日とも、恐らく必ず夜の激しいまぐわいが予想されます。どちらも素晴らしい殿方で、私の事を大切にしてくれている待ち焦がれた二人だけの時間でございますので、どちらとも誠心誠意魂を込めた男女の深遠な営みを心がけると共に、どの様な面持ちで対処していけばよろしいのでしょうか、ご相談したくお伺い致しました。

どちらも心から愛し尊敬しております。この様な偶然を誰が予想したでしょうか。この様な事を考えただけでも、足の末端から血が騒ぎたて痺れが膣にまで昇り天にまで舞ってしまうような、想像の中だけでも恍惚の彼方へ飛ばされてしまいそうでございます。あぁこのフシダラな貞操観念の壊れた私の身体にどうかご加護と罰をお与えください。誰も悪くはない、誰も最良ではない、誰もが愛おしく誠実なお方たちでございます。

土曜日のEは、既婚のエリート銀行員で、もう四年以上の付き合いになります。彼の人事異動と共に始まったわたくしへの猛烈なアタックに終ぞ屈し、そのまま成り行きに任せてしまったその時、わたくしの前に現れた見たことも無い様な美しい巨大な勃起したペニスーーー私は少なからず感動し、そしてそれが私の膣の中に入ると待っていたかのような快感が両人に押し寄せその活動は止まらなくなってしまいました。Eは綺麗好きで奥方と手を触ることもなく、家庭としては半ば崩壊しているため、私との営みをそれのみの為にそれだけを考えて眠っている様でございます。もし彼と出会ったのが十年早く、そして彼が既婚者でなければ私達は恐らくかなり濃密な関係になっていたに違いありません。物理的な合体時の快楽のみならず、その運動後にするお互いの仕事の話や、時事や歴史と絡んだ話、メディアや社会的な情況を彼から教示され、肌を触れ合いながらのその他愛のない時間、急に真剣な眼差しに戻り愛撫を始めたり、その一晩そのものが彼との最高の秘密で深遠な時間であるのでございます。それは彼が朝方帰ったあとの虚しさと比べてもこれまでのどんな時間より充実感のある愛おしい私達だけのひとときなのでございます。

日曜日の彼は、アナーキストの小説家で、彼との交友も三年以上はあるのですが男女の関係になったのはまだ一度だけ、そのセックスはどこか捨て鉢になって無理やりその殻を破ったかのような情況でございました。ですので私としては一つのロマンチシズムを感じず、前戯のキッスや愛撫もままならず、半分就寝に陥ろうとしたスキに彼のペニスが後ろから挿入されてきたのでございます。かく言う私も、その実じっくりと陰部としては準備はできていたのでございますが。。彼は丸々哲学的な人間ですから、Eの様に酒の勢いや別人格を借りて女の身体に迫るような器用な術は持ち合わせていないのでございました。その小説家をAとすると、Aとはこの3、4年もの間ほとんど毎日思想交換的なメールばかりのやりとりをしてきたのでございます。私くらいの学びではちっとも彼の知識に及びませんが、いくらたくさんやりとりをしても少しも途絶えることもなく、例え途絶えてもまた復活して忘れた頃にひょっこり会いに来て、しかし手を触れられる事もなくただ時を過ごしていただけの仲でございました。所謂「友人」という枠でしか、考えようにも考えられないと私自ら結論づけていたのでございます。それまで会うのは2、3ヶ月に一度、彼は埼玉県の寄居町に一軒家を構えているものですから、東京に仕事の打合せなどで来た時に私と時間が合えば、例えば映画を観るとか、エスニックなご飯を食べるとか、割り勘でそこそこの距離感を保ちつつの関係だったのでございます。ところがその様な関係に正直少し辟易してきた1ヶ月程前に「仕切り直しに」と彼は改めて私を寄居の自宅に招待し(わたくしとしては日帰りで東京に戻ろうとしていたのでございますが)彼の自宅の農園や猫のアズキを可愛がっているうちにとっぷりと日は暮れ、夜中までゆっくりとした、私が心底飢えていた壮大な自然に包まれた確かな静寂と暖かな時間の中で、虚ろいながら諦めて休もうとしていた時、思想哲学と芸術と社会的な話しかしていなかった彼が小さな声でこう言ったのでございます「一緒に寝る?」と。その様な急な誘いに乗れるほどの余裕のない疲れた私は彼の家のゲストルームに聞こえないふりをしながら入り、湯たんぽを抱えながらまだまだ寒い田舎の夜の中で眠りについたのでございます。内心微笑んでおりましたのは言うまでもございません。

Aの素晴らしい所は料理を一人楽しんで私にも当然の様に出してくれたり、昭和の時代実家にありそうなクラシックレコード全集や芸術絵画全集、あらゆる文化、文学の書物を所狭しと収集しており、眼を見張るような書物、アンティークグラスのコレクション、その大きな波とうねりの中で私はある種陶酔してしまい、すっかり心を奪われたのでございます。彼とは必然的な関係になりうるのかもしれない、とやっと出会えた至上の喜びと、少しの諦めとが内在した穏やかな心持ちになっていたのでございます。しかしEと比べたら、Aとはまだ砕けて笑ったり触り合ったり、互いの目を見て接吻する事すらできませんでした。先述した通り一度きり私の中に入ってきた時もその様な素振りは一切見せず、うつろうつろしている私に後ろから内容があるでもない話をしながら非エロチックに身体を触ってきたかと思いきやさりげなくもぞもぞした中で挿入運動が始まったのです。しかし挿入された私は声を出さずにおれず普段の私からはあまり想像もつかないであろうあの女性特有の快感声を発しながらそれが彼にとってどの位の意味を成していたのかは知る由もございませんが、それに別段反応も見せず恐らく無表情でそのピストン運動を遂行していたのでございます。女子のわたくしにとっての「ムード」、その様な言葉は見当たるはずもなく、その様な時に私は、もちろんEとのセックスを超えられる事はないと百も承知でしたが、Aのその冷めたセックスを小馬鹿にしながら何とかしてその気に引き込もうと心がけたのでございますが、ミステリアスなAはどこか退屈で気怠げで今ひとつその様な境地まで持っていくことが出来なかったのでございます。しかしとりあえずは私というキャラクターはウブで恥ずかしがり屋でしかし身体が言うことを聞かない精神と肉体のギャップに悶々としている一匹のメスである、という様な型でございますが、本性と致しましては、Eは私の性奴隷。と申しておりますし、恐らくの経験値としてはAよりも遥かに私の方が高い、それは確かかと存じているのでありますが、彼をより性的快楽の探求の旅へ導くべくセックスの奴隷と化する様に少しずつ鍛錬していこうと思っている次第でございます。

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