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収納と展開の機能併せ持つ移動式本棚、ときがわ材で 建築家の卵、地域課題の解決に挑戦


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(移動式本棚の説明をする永田さん)

 「地域にはいろんな頑張っている人たちがいる。その人と人の間をつなぐデザインをすることでサポートしていければ」と語るのは、川越市に住む建築家の卵・永田伊吹さん(26)。

 永田さんは、この春、ときがわ町で月1回行われる古本市「本屋ときがわ町」のために、箱として重量のある本を収納・運搬でき、イベント開催時には棚として展開するときがわ材製の移動式本棚を制作。本棚は6月のイベントでデビューした。

 制作のきっかけはときがわ町で起業支援事業を行う「ときがわカンパニー」の関根雅泰さん(49)。2020年の夏に鳩山町の「ニュー喫茶幻」のイベントで出会った。関根さんが「町に本屋を作りたい」との思いで始めた「本屋ときがわ町」では、本の収納、イベント設営・撤収時の運搬、そしてイベント時の展示、それぞれに課題を抱えていた。関根さんは、それらの課題解決にむけて、永田さんに白羽の矢を立てた。当時、シェアハウスの仲間と制作した屋台で鳩山ニュータウンの高齢者同士をそれぞれの趣味の制作物の販売でつなぐ「運ぶ受付プロジェクト」を行う永田さんの活躍を見ていたからだ。

 「木箱を変形させることで、収納する時に重ねて積める、イベントでは展示台として展開できる二つの機能を持ち、キャスターを付けて楽に運搬できるものを考えました」と永田さん。これを地域の特産であるときがわ材で作るアイデアをまとめ、関根さんからは「ぜひ作って」とラブコールをもらう。しかし、そこからが苦労の連続だった。

 初体験の地域材の調達については、関根さんの起業塾の塾生で地元材の活用に取り組む人を紹介してもらうが、それを加工する職人さん探しでプロジェクトは危機を迎える。「建具の町」で有名な町内に職人さん達がいないわけではない。ただ、「一般に家具に使用されるのは堅い広葉樹。職人さんはいいものを作るために材料にこだわりがあった」、「また、地元の無垢材を取り扱う知識を設計者である私が持っていなかった」(永田さん)。

 相談しては断られの2か月の後、ようやく「地元材を使った経験はないがこの挑戦で地元林業の再生に貢献したい」という職人さんに出会う。その後は、無垢の地元材がどのくらい暴れ、どのように組めば上手くいくかといったことを職人さんと一つひとつ学んでいく苦闘が2か月続いた。

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(写真②完成した移動式本棚の展示形態。壁面の筋は板の反りを押さえる加工、写真提供:永田さん)

 「日本は国土の七割ほどを森林が占めるが、地域材活用には課題が多い。地域材の使用にはお金がかかるが、地域内での経済効果は格段に高い。地域材を地域の日常に使える仕組み作りが整えば、直接的に見える値段とは違う価値につながる。私は設計者として川上である林業と川下である消費者の間に立ち、無理のない仕組み造りをしていければ(永田さん)。

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(写真③インタビューに答える永田さん、右は移動式本棚)

 いま、永田さんは今年の夏から秋にかけて行われる一級建築士試験に挑戦中だ。中学生の修学旅行で東大寺(奈良市)の南大門を見て宮大工に憧れた若者は、これから、新たなものを設計し製品化するプロセスを通じて、地域の様々なところで活躍する人々をつなぎ、地域の高齢化や地域資源の活用といった社会課題の解決を実現する建築家を目指していく。


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