VannDa〜ヴァンダ〜🇰🇭【スーパースターを目指すカンボジアの若者たち】第26話
🇰🇭VannDa〜ヴァンダ〜
ケンは、本当にバカな男なんだけど、「モノを創り出す」能力には長けていて、ポラリックスのミュージックビデオは、他のカンボジア人アーティストがつくるものに比べてだいぶ個性がありました。
ケンはめっちゃくちゃクオリティにもこだわってましたからね!
そんなポラリックスのミュージックビデオをYouTubeやSNSで見て、
「ケンにミュージックビデオ作成を依頼したい」
とお願いしてきたカンボジア人アーティストが何人かいました。(これも、事務所のみんなにとって貴重な収入源でした。お金、お金~♪)
いろんな意味で、代表的な二人のカンボジア人アーティストをご紹介しましょう。
一人目は、Mさん(理由あってMさんにしますね)。
Mさんはカンボジアで名の知れた歌手で、ポラリックスより少し上の世代。
色白でぽっちゃりしていて、いかにも「カンボジアのお金持ち」って感じの風貌です。
ポラリックスたちも彼を知っていて、彼のミュージックビデオ撮影が出来ることをとっても喜んでいました。
しかもMさんは、ポラリックスに彼のバックダンサーとして踊ってもらい、ミュージックビデオに一緒に出て欲しい、と依頼してきたのです。
撮影の打ち合わせ、彼は高そうな車に乗って、事務所の前に乗り付けて来ました。
大遅刻してね。
そして、彼はデモテープをケンに渡しました。
音源を流してみると、そこから流れて来たのは・・・カンボジア人も大好き、有名なK-POP。
それに、Mさんが歌詞をのせたものだったのです。
「これにそっくりな曲を作りたいんだ」
・・・・はぁ!?
ウチの事務所はオリジナルソングしかやらねぇんだよ!
俺の名誉にかけてコピーソングは絶対に取り扱わねぇからな!!!
・・・・と、怒鳴り散らしたい気持ちを精一杯に堪えて。
コイツは金を落としていくんだ、何とかやんわり伝えなきゃ!
(偉いわ、ケン!大人になったわーーー!!)
「もし仮にこの曲にそっくりなものを作ってリリースしたとして・・・
もし、この曲をゼロから創った韓国人のアーティストが“真似された”と気づいたら、これは盗作ってことになって、リリース出来なくなるよ。
せっかく創るんだから、そのリスクは避けた方が良いんじゃないかなぁ・・・」
「ふーん。じゃあ、全部は真似しなくて良いから、出来るだけ似せて創ってよ」
“誰かの作品に似せて創って”
そう言われるクリエイターの気持ち、想像できますよね。頭きちゃいますよね。
事務所の楽曲担当・ミッキーは、嫌な気持ちでオーストラリアからこのMさんリクエストの楽曲づくりに取り組んでくれました。
大きな枠組みだけを残し、“盗作”にならないように曲を創りました。
しかし・・・
「この部分は、K-POPと同じにしてくれ」
「それじゃ、盗作って言われちゃうよ」
「いいや、僕は全く同じメロディがいいんだ」
その押し問答が繰り返され、なかなか進まず。
並行して作られていたミュージックビデオについても
「僕よりポラリックスのダンスが上手く見えるからどうにかしてくれ」
いやいや!ポラリックスの方が上手いに決まってんじゃん!毎日、練習してるんだから!
(Mさんはポッチャリさんで、ちょっと動くと息あがっちゃうの)
「僕がポラリックスより太って見えるから、何とかしてくれ」
いやいや!あんた、ホントにポラリックスより太ってるんだって!
(もう一度言うわ、Mさんはポッチャリ度強めよ)
憧れだったはずのMさんの様子に、ドン引きしていくポラリックス。
曲は、これ以上は似せられないってとこまでミッキーが寄せて、
ミュージックビデオは、出来るだけポラリックスの登場を減らして、
この曲をリリースするテレビ会社に提出しましたが、やはり・・・
「この曲、K-POPのあの曲とそっくりなんだけど、リリースして大丈夫かねコレ?」
と、テレビ会社の社長(フィリピン人)からケンに相談がありました。
「さぁ・・・。」
あの曲とミュージックビデオがどうなったのか、誰の記憶にも残っていません。
ただ、ポラリックスは二度と、Mさんへ憧れることはなくなりました。
Mさんは現在、音楽業界からすっかり干されているそうです。
チャンチャン♪
そして、もう一人のアーティストの名は、ヴァンダといいます。
彼は色黒で細身で小柄な、一見どこにでもいそうなカンボジア人の青年でした。
ポラリックスと同世代。
彼は、YouTubeで自分のオリジナルソングを配信しており、日本人にも通ずるような、心の揺れや痛みを見事に表現する歌詞と、その見た目からは想像できないような渋くてインパクトある声で、若者の人気を得ていました。
ポラリックスたちも、よくYouTubeを見ながら彼の歌を大きな声で歌ってたものです。
ヴァンダはバイクで事務所にやって来て、自分が創った曲とミュージックビデオのイメージをケンに伝えました。
「こいつ、すげぇな」
なかなか人を褒めないケンが思わずそう感じてしまう、ヴァンダの歌声や曲作りへの思い、こだわり、信念。
ヴァンダとポラリックスたちは、数日間を一緒に過ごし、共にミュージックビデオ作りに励みました。
ヴァンダは日本のアニメなども好きらしくて、ケンとも話がはずんでたわ。
それにヴァンダはものすごく礼儀正しい良い子でした。
最後にはケンに合掌のうえ「ありがとう」と丁寧に御礼を言ってくれて、
ポラリックスたちとは
「また一緒にやろうね、ブラザー!」
と抱き合って、若者らしい笑顔で、バイバーイ!と去って行きました。
ポラリックスたちも、とっても楽しそうだった!
妥協しないその姿勢、クリエイティブに懸ける純粋な想い、謙虚な姿勢、穏やかな物腰。
ヴァンダの背中を追いかけて、一緒に新たな時代を築いていって欲しいなと思うケンでした。
このミュージックビデオはYouTubeで公開されて、たくさんの若者たちが一緒に歌ってくれたはずです!
↑これがその時に撮影したミュージック・ビデオ。
ヴァンダの顔には、まだあどけなさが残っています。
それから“6年”
ヴァンダはスターダムを駆け上がり、世界を股にかけ
「カンボジアの帝王」と呼ばれるまでのカリスマラッパーへ。
彼はカンボジアの新しい時代を切り拓く存在となっていくのです。