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『サラ金の歴史』小島庸平(2021)

小島庸平氏の著書『サラ金の歴史―消費者金融と日本社会』は、日本における消費者金融、通称「サラ金」の発展と変遷を、家計やジェンダーの視点から詳細に分析した作品です。本書は、戦前から現代までの約100年間を対象に、サラ金業界の興隆と衰退、その社会的影響を多角的に探求しています。

戦前の金融状況


戦前の日本では、親戚や知人・友人間での資金貸借が一般的であり、「素人高利貸」と呼ばれる個人が副業として高利で金銭を貸し付けることが行われていました。1933年の東京府での調査によれば、親戚・知人友人間の借入で無利子のものは皆無で、月利5~10%(年利60~120%)が最多であったと報告されています。  

戦後の経済成長と団地金融の台頭


戦後、日本は高度経済成長期に入り、家電製品や自動車などの耐久消費財が普及しました。この時期、森田商事や日本クレジットセンターといった企業が「団地金融」と呼ばれる新しい金融サービスを開始しました。これは、団地に住む主婦を対象に、小口の融資を提供するもので、「現金の出前」というキャッチコピーで顧客を集めました。団地金融は、日本住宅公団の厳しい入居審査を信用調査の代替とし、貸し倒れリスクを低減させることで成功を収めました。  

サラ金の隆盛と社会問題化


1970年代以降、サラ金業界は急速に成長しました。しかし、過剰貸付や厳しい取り立てが社会問題となり、多重債務者や自己破産者が増加しました。特に、サラ金各社が導入した団体信用生命保険(団信)は、債務者の自殺を誘発する要因となり、問題視されました。1978年に借金苦で自殺した180名のうち、90%に当たる162名は男性であり、自殺に追い込まれた債務者には圧倒的に男性が多かったと報告されています。  

規制強化と業界の変遷


2006年に改正貸金業法が制定され、2010年から完全施行されました。この法改正により、金利は最高でも年20%に引き下げられ、過払い金の返還請求が可能となりました。これにより、サラ金各社の経営は悪化し、多くの企業が銀行の傘下に入るなど、業界構造が大きく変化しました。  

現代の消費者金融と課題


現在、消費者金融業界はかつてのような派手な広告や積極的な営業活動を控えています。しかし、銀行カードローンやリボ払いなど、よりクリーンなイメージを持つ金融商品が普及しており、高金利や返済の複雑さといった新たな課題が存在します。サラ金の歴史は、金融業界の変遷と人々の生活、そして社会の価値観の変化を映し出す鏡と言えるでしょう。  

本書は、サラ金の歴史を通じて、日本社会の経済的・社会的変遷を深く理解するための貴重な資料となっています。サラ金を単なる悪者として捉えるのではなく、その存在が時代の必然として生まれ、どのように社会と関わってきたのかを考察することで、現代の金融社会を見つめ直す契機となるでしょう。

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