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誰でも美味しいご飯を炊けるように!
これは明治時代の釜の発明です。焦げないで美味しいご飯が炊けるように、釜底を二重にし、二重底に水を入れる構造にしているのが本発明のポイントのようです。釜の腰についた鍔(つば)に筒穴を立て、そこから水を入れます。特許明細書を見ると釜の使い方が記載されています。
・洗った米と通常の分量の水を入れる。
・鍔(つば)の筒穴から少量の水を入れて栓をする。(これは煮沸する際にはなはだしく水蒸気が発生しないようにするための対策)
・竃(かまど)に薪(たきぎ)を燃焼させる。
・従来通りに煮沸する。
炊き方の手順は今とさほど変わらないようですね。大きく違うのは竃(かまど)で薪(たきぎ)を燃やして火を使うところです。今でもガスコンロを使って鍋でご飯を炊きますが、ガスコンロでの火加減はそんなに難しくないので焦げてしまうことはめったにありません。おそらく薪を燃やして火を調節するのが至難の技だったのだと思われます。
発明者である武内孫八さんの母上あるいは奥方、婆やがご飯を炊く際に、何度も焦がしてしまっていたのではないかと想像します。家族が美味しいご飯にありつけなかったり、貴重な米を無駄にしてしまったり、釜を洗うのが大変だったり、、苦労していた姿を見たのが、失敗なく美味しいご飯が炊ける釜を考えるきっかけだったのかもしれません。
発明者の住所を見ると京都ですから、もしかすると商家の大家族だったかも? 複数のかまどを使って、複数の釜でご飯を炊いていたとしたら、てんてこ舞いだったことでしょう。今のような核家族と違って、うまくいかなかった時の“食べ物のうらみ”は何倍にも重いです。
「はじめちょろちょろなかぱっぱ」という言葉があります。薪を燃やしてかまどでお米を炊く際の火加減のコツです。失敗は成功のもとと試行錯誤を繰り返して、職人芸のような個人技を極めていく人も中にはいたことでしょう。一方で、先輩方の言葉に従ってみても、火の扱いがどうも苦手で、、なんて人が多数派だったように思われます。そうした多数派の苦手を広く救うことを目指したのが特許出願された技術なのかもしれません。誰でも美味しいご飯が炊けるように! というのが発明者の思いだったのかもしれませんね。
新米の季節になりました。美味しいご飯を炊いて幸せを満喫したいですね。
【使用した文献】
文献番号:特許第64号
名称:改良飯煮釜
出願日:明治18年9月29日
登録日:明治18年11月26日
特許権者:武内孫八
住所:京都府加佐郡舞鶴魚屋町
【データベース】
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