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「あなたの好きな人」
お気に入りのミュージシャンがネットラジオで募集したメールテーマは
「あなたの好きな人のこと私に語ってください」
早速投稿しようとパソコンを起動させてみたものの、全くと言っていい程にキーに載せた指は動かない。
いろいろな人の顔を思い浮かべてみるが、まるで文章が浮かび上がって来ない。
そもそも自分には「好きな人」がいるのだろうか?
そんな思いにまでかられてしまう。
「好きな人」にもいろいろあるだろう。
恋愛の対象、憧憬や尊敬の対象、趣味や嗜好や思想を同じくする人などなど。
誰だって、何らかのそういった対象となる人が必ずいるに違いない。
じゃあ私の場合は?
家族はどうだろう。妻は?子は?両親は?
近過ぎて、付き合いが長過ぎて、改めて「好き」とか「嫌い」とかといった通り一遍の表現では表せない。
どんなに身近にいたとしても、切っても切れない縁があったとしても、「好きな」面もあれば「嫌いな」面もある。「好きな」時もあれば「嫌いな」時もある。
だいたいからして照れ臭くもある。
今更、「私の好きな人」として人に紹介するのに違和感もある。
勿論、白昼堂々と「僕は妻が好きだ!」「俺は我が子を誰よりも愛している!」と公言できる人もいるとは思う。
いた方が良いと思うし、言えるものなら言うべきだと思わないでもない。
でも、言えないな。多分言わない。
明日自分が死んでしまうというような状況に追い込まれでもすれば、話は違うかも知れないけれど。
それじゃ、いつか恋していた憧れの人とかはどうだろう?
恋焦がれていたけれど、告白することも叶わず、結果フラれることもなく、今も心の奥底で淡い恋心が燻ぶっているような対象。
いやいや、そんなことを公言すれば物議を醸すだけで何ひとつ良いことはないだろう。
だから、それも却下。
歌手や俳優とか、大好きではあっても現実には日常が交差することなどなく、謂わば別世界の住人のような人々。
これは可能性があるかも。
現実に相手に気持ちを伝えることなどないだろうし、そんなことをすればストーカー呼ばわりされ、「アブナイファン」の烙印を押されてしまう。
でも、一方的に作文するだけなら、歌の上手さや演技の素晴らしさ、姿形の可愛らしさや美しさ、好きな理由は躊躇うことなく公言できる。
無難だ。ある意味。
でも、それって表題の「あなたの好きな人」なんだろうか?
微妙に違う気がする。「好き」の意味が。
やっぱり私には「私の好きな人」はいないのだろうか?
そうこうしているうちに投稿の締め切りは過ぎてしまった。