窓際の君
我が家の窓際から眺める景色が好きだ。
日頃から大して外にも出ず、家でのんびりする事が好きな私は、よく窓際から見える景色や人を観察している。
子どもが好きなアニメのキャラクターが、廊下を歩く人をドア越しに見ると、まるで水族館に居るようだと言っていたが、なんとなく分かる。
窓の外を行き交う人々それぞれが全く違う人生を歩み、違う景色を見ている。私から見えるのは一部分だけなのに、窓の外の人々には沢山の人生があるのだと、想像してみるのも楽しい。
直接話したことは無いけれど、よく家の前を通る子供がいた。急いで走り去る日もあれば、目が合うと手を振ってきたりと窓越しの特別な交友があった。
ランドセルを背負っていた子がいつしか大きくなり、最近はめっきり見なくなってしまった。
人は変わりゆくもので、窓の外の世界は随分目まぐるしく時間が進んでいくのだろう。
皆もっとゆっくり呼吸をして、今この時しかない空気や景色を味わえばいいのに。
私も随分歳をとり、老いぼれてしまった。今では自分一人では動けないけれど、それでも窓際から景色を眺めるのは毎日の日課だった。
ある日、見覚えのある青年の顔があった。多分あの子だ、随分大人びた顔をしているが面影はなんとなく分かる。
ふと目が合い、青年は周りを見渡して誰もいないのを確認した後にこちらに小さく手を振った。
向こうも私を覚えていたことに、じわっと広がるものがあるのを感じた。
「ちょっと!いつまでそこにいるの。ほんとに好きだねぇ。でももうおじいちゃんなんだし、あまり寒いところにいると風邪をひくよ。」
説教口調で娘が話してきた。
外に立っていた青年と目が合い、娘も会釈をする。
「あの人、見たことあるね。よく家の前を通ってた。今日は帰省中なのかな?」
そう言って、娘は私を抱き上げる。
あの青年は明日も家の前を通るだろうか?
いや、きっとしばらくは見ないに違いない。
窓の外の人間たちには、それぞれの人生が広がっているのだから。
また帰ってきた時は少しくらい尻尾を振って相手してやろう。
そう思いながら、私は娘の腕の中でまた眠りにつくことにした。
明日も窓際で。
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猫視点話2個目。
近所の猫はいつも窓際にいて、その世界を知りたくなったり。