その色が似合う日を待っている #noteリレー
ふだん暗い色の洋服を着ていることが多いせいか、今年の初出でブルーのニットを着て行ったら、同僚に
「何かいつもと雰囲気が違う」
と驚かれた。
「あ、これね。安かったから」
つい言い訳がましくなってしまう私に同僚は笑って言った。
「いいやん!似合ってる」
「ほんま?ありがとう!」
ほめられたことが嬉しくて、そのニットはお気に入りになった。
ふと、子どもの頃のできごとを思い出す。
小学校の入学式。
私は母に買ってもらった青色のワンピースで出席していた。
このワンピースを買いに行った店には、同じデザインでピンクのものもあり、店員さんは私に「どっちが好き?」と尋ねた。
どっちも好きだった。水玉のリボンがついてとてもかわいかった。
さんざん迷った挙句、ようやく1つに決めて指さそうとしたときに、母が言った。
「青い方にしよっか」
紙袋に入れてもらったワンピースを受け取り、家に帰る途中、私はずっと涙をこらえていた。
私はあのとき、本当はピンクの方を選びたかったのだ。
ふくれっ面に気づいた母が「もう一度店に戻って交換してもらおうか」と言ったけれど頷かなかった。
「もういい。青でいい」意固地になり、母は「じゃあ好きにしなさい」ととがった声を出した。
楽しい入学式の買い物がさんざんな思い出になってしまった。
私にはピンクは似合わないんだ。
いったんそう思うと、それから淡い色全般が苦手になった。
色黒だから、白い服もぜんぜん似合わない。
一重ではれぼったいまぶたをしているから、かわいい洋服なんて似合わない。
そんな風に、自分に自分で呪いをかけて、ずっとうつむいて子ども時代を過ごしてきた気がする。
大人になり、何かのきっかけから母とこの入学式のワンピースの話題になったことがある。
私にとってはピンクアレルギーともなったきっかけの出来事なのに、母はあまり覚えていないようだった。
そんなことあったっけ、と他人事のように笑うばかり。
「あの時お母さんが勝手に決めたやんか。青い方にしとき、って」
あのときの怒りやら悲しみやらがよみがえってきて口調が荒くなる私をなだめるように、母は言った。
「それは、たぶん青い方が似合ってたからと違うの?」
ピンクが似合っていなかったんじゃなくて、青が似合っていたから、母は青いワンピースを私に勧めたのだと言い張った。
昔の話。本当のことは分からない。
正直、青いワンピースも似合っていたかと言えば、首をかしげてしまうけれど。
古いアルバムをめくって入学式の写真を見つけても、つい無言で閉じてしまうけれど。
でも、母の言葉を聞いてから、ピンクは私の中で嫌いな色ではなくなった。
どちらかというと、あこがれの色になった。
ずっと、これは私には合わないと思っていたもの。似合わないと思っていたもの。
色に限らず、何でもそうなのかもしれない。仕事でも、人間関係でも。
マイナスに考えるのではなくて、こっちの方が今の自分に合うからと考えればよかったのだ。
苦手だと思ったことも遠ざけるのではなく、いつか近づける自分になればいい。
簡単なことだった。でも気づくまでにずいぶんかかってしまった。
モノトーン一辺倒だった私のクローゼットには、最近遠慮がちではあるけれど、白や淡い色が混じり始めた。
高い服でチャレンジする自信はまだないから、ユニクロあたりでちょっとだけ冒険をする。
明るい色のニットを手に取って、どう?なんてひとりつぶやきながら鏡に合わせてみたり。
最終的にレジに持って行くのは、結局地味な色の方が多いのだけれど。
でも、今はそれでいい。
もう少し年を取れば、顔のくすみも化粧でごまかせなくなるだろう。
そうなったらきっと、服は明るい色の方が似合うようになるはず。
そんな日も近い。
そのときは堂々とピンクだって赤だって着てみようと思う。自信を持って。
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sakuさんのこちらの企画に参加しました↓
企画がスタートして間もないころ、タイムラインで何度かこの企画に参加された方の記事を読んでいたのですが、私には遠い世界のお話だと思っていました。そんなバトンが、私のところにまわってくるなんて。
私にバトンをつなげてくれたのは、四宮麻衣さんです。
DMで声をかけていただいた時は、麻衣さんも書いていらっしゃいますが、驚きました。そして、それ以上に嬉しかった!ほんとに嬉しかった!
書くテーマをリクエストしても良いと言ってくださったのですが、あえてお任せしました。お題は「私の好きな色」。無事受け取ることができてホッとしています。
次の走者は、この方にお願いしました。
初期の頃のエッセイからは、大人の女性が生きていくなかで感じるしんどさや痛みを感じて共感の嵐でした。
タイトルも含めてとても好き。しんどい、痛いだけじゃなくて、ちゃんと前を向いているところも好き。
この記事を読んだとき、私、もしsuzucoさんと同級生だったら、友達になりたかったなと思いました。
同じ時期に同じ雑誌に投稿していたことを知って何だか嬉しくて。お互い一度しか採用されなかったところも同じで、より親近感。
そしてこのエッセイで最後に紹介されている俵万智さんの短歌、そのあとのsuzucoさんの
青は何度でも訪れる。
私は私のタイミングで行こう。
という決意の言葉に「好き・・・」となりました。
クラスメイトだったら、交換日記しませんか?(なぜ敬語)などと言っていたかもしれません。それとも、なかなか話しかけられずにもじもじしていたかな。ああ大人で良かった。ちゃんと好きって言えるから。
さて。
suzucoさんにお願いした次回のテーマは「空が青いのはなぜ?」です。
エッセイでも小説でもポエムでも・・・・・・
お好きにこのテーマを料理してください。
楽しみにしています。